まだ辞書に載っていない中国語の新語をひたすら書き連ねていきます
喊麦/地下ラップ/講談ラップ(Chinese underground rap)
……と書いてみましたが、「地下ラップ」「講談ラップ」はしーらかんす式訳語なので、言っても通じません。今回はとりあえず中国語の「喊麦」のままいきます。あえて日本語読みするなら「かんばく」。
米国の黒人文化であるヒップホップが大陸で流行の兆しを見せた始めた2018年1月、共産党によって排除された件については前に書きました。この時、制限されたのはヒップホップ音楽/ラップ、刺青、共産党批判or性or暴力絡みの表現。
で、ヒップホップアーティストやラッパーはテレビや主要動画サイトから締め出されたが、そのいっぽうで地道に密かに(でもないけど)新感覚の大陸ラップが制作されている。それが喊麦という新ジャンルのラップなのだ。
喊麦
喊は動詞で「叫ぶ」、麦は「マイク」(麦克风 )の略で「マイクに向かって叫ぶ」という意味と思われる。喊麦を専門にする人もいれば、ヒップホップ音楽をやっていたラッパーが喊麦をやる場合もある。韻を踏む点、口語に近いアクセントで歌う点などはヒップホップ音楽と同じ。
ではヒップホップ音楽との違いは何かというと、次のような感じ。
- 单口相声、评话、评书、快板 など伝統的な说唱(早口の語り)に近いグルーヴ感
- DJ、スクラッチ、ビートボックスなどヒップホップ的な要素を伴わない
- 基本的に喊麦歌手が一人で行う
- 作品は、ライブ配信や動画で発表される。人前で披露されることは基本的にない。2018年1月以後は、テレビやWeb番組で取り上げられることもない
- ラップを乗せるためのBGMは既存曲の無断使用、動画は既存の映画、ゲームなどの無断使用などが多く著作権の概念が薄い。(映像については、MAD動画のように第三者が後付けしている可能性もある)
- 自室のパソコンでBGMを再生しつつラップを被せる様子を配信することもある
- 喊麦歌手同士がお互いにカバーしあったりする
歌詞の特徴は
- YO!とかSay Yeah!とかを使用しない。英語フレーズも使用しない
- 相声に見られるような身近な題材を、古典的なワードで描写する
- 《三国演义》などの武勇伝や戦闘を古典的なワードで描写する。まさに评话、评书のラップ版
- ブッダと魔王、善と悪、正と邪、光と闇などの対比をちりばめたタオイズム的、退廃的、厭世的な雰囲気が漂う内容(共産党の喪文化規制に引っ掛かりそう)
など。
このように、喊麦文化には濃厚な大陸色が漂っており、米国のヒップホップカルチャーとは一線を画している。だがラップの一種であることは間違いない。
MC七星の人気喊麦《佛说》は、孫悟空が強靭な肉体と法術を駆使して天界で暴れ回った末、絶対的存在である釈迦に屈するまでを歌っている。この歌詞を
の比喩とする解釈もある。(ジャク・マーさんや香港民主化運動の現在がまさにコレ!)
以上、何曲かしか聞いていないので間違ってるところがあったらごめんなさい。
大陸独自の新ジャンルとして根強いファンに支持されている喊麦だが、「音楽は無断使用、歌詞は古典の寄せ集め」「小学生の作文レベル」などネガティブな意見も多い。
喊麦歌手はヒップホップ系のラッパーと同じく大陸北部、北西部の出身だったり、東北地区の出身だったりする人が多いイメージだ。大陸ロックのルーツを北西部とする説があるが、大陸ラップも同じ北西部から発信されているのが興味深い。
どんな感じか聞いてみたい人はYou Tubeで 喊麦 と入れて検索してみてほしい。PG One氏などの洗練されたヒップホップ音楽とは違う雰囲気が分かると思う。
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