みんな大好き台湾がここに来て新型コロナワクチン不足に陥っている問題で日本人が誤解しがちなこと1の続きです。
- 「中国は台湾にシノバック製、シノファーム製ワクチンを売りつけようとしている」わけではありません
- 台湾は「いくらファイザー製でも中国経由で出荷されたワクチンなんて信用できるか!」という理由だけで、中国の申し出を突っぱねていたわけではありません
- 「上海復星医薬は、台湾の邪魔をするためにワクチンの権利を横取りした」わけではありません
- 「復星医薬はただの販売代理店。開発したのはビオンテックとファイザー。だから台湾が買うワクチンは中国とは無関係」ということでもないかもしれません
「中国は台湾にシノバック製、シノファーム製ワクチンを売りつけようとしている」わけではありません
中国製ワクチンなんてヤバいもん打てるか!中国が台湾に殺人ワクチンを売りつけようとしてる!などはヤフコメやツイッターなどでよく見かけるご意見。
でも、中国製ワクチンがヤバいかどうかはさておき、中国大陸が台湾にシノバック製、シノファーム製だけを売りつけようとしているわけではありません。
シノバック製とシノファーム製は、中国大陸で開発された新型コロナワクチン。ところが大陸は、この2種類の国産ワクチン以外に
というメジャーなワクチン2種類を、がっつり確保しています。
中国は2021年5月時点で、台湾にファイザー製ワクチンの寄贈を表明している
台湾との折衝窓口である中国国務院台湾事務弁公室(国台弁)とファイザー製ワクチンの中国大陸パートナー企業=復星医薬は、台湾に対し、ファイザー製ワクチンの提供を申し出ています。
国台办发言人朱凤莲周三加码表示,支持上海复星代理的德国BioTech“复必泰”疫苗提供台湾,“只要没有人为或政治障碍,捐赠基本上不成问题”。
出典:中国大陆称愿意提供疫苗抗疫 台陆委会回应称“统战手段” 「中国大陸がワクチン提供意向表明 台湾大陸委員会は統一戦を警戒」 (BBCニュース 2021年5月27日)
国台弁の朱報道官は、復星医薬がライセンスを所有するファイザー製ワクチンを台湾に提供することに賛同し、「人為的または政治的障害さえなければ、寄贈することも可能」と述べた。
復星医薬とは
中国大陸の民間企業、復星医薬は、いわゆるファイザー製ワクチンの開発元である独ビオンテック社の大株主。
復星医薬は、いわゆるファイザー製ワクチンの大陸での独占的開発と商業化の権利をビオンテックから取得しています。さらに、大陸、香港、マカオ、台湾でいわゆるファイザー製ワクチンの治験、販売を行うことでも合意しています。
より詳しいことを知りたい人は、毎日一語、中国語~中国復星医薬のファイザー製ワクチンをご参照ください。
いや、もちろんシノバック製やシノファーム製を寄贈しようともしてましたよ。
参考:国台办:符合接种条件的台胞可按有关政策在大陆接种疫苗_新华报业网 「国台弁、接種条件を満たす台湾同胞が大陸でワクチン接種をできるようにする」(新華社 2021年6月)
でもそれだけってことではありません。少なくとも2021年5月に、台湾にファイザー製ワクチンを販売または寄贈する意向を示しています。
この申し出に対し、蔡英文さんは「中国が台湾のワクチン購入を妨害している」と突っぱねたわけです。
参考:台湾と独ビオンテックのワクチン契約、中国が妨害=蔡総統 | ロイター
台湾は「いくらファイザー製でも中国経由で出荷されたワクチンなんて信用できるか!」という理由だけで、中国の申し出を突っぱねていたわけではありません
もちろん、中国大陸経由なんて、そんなん信用できるか!細工されてるかもしれん!だいたい武力統一も辞さずとか言ってる連中がまともなワクチンよこすわけなかろーが!という意見も存在します。(この風潮は香港も同じ)
台湾衛生部は、「大陸でも使用承認されていないワクチンなので安全性に懸念があると言わざるを得ない」的なソフト表現をしていますけどね。
中国のワクチン提供申し出は台湾統一工作の一環
でも最大の理由は、大陸企業・復星医薬から出荷されたワクチンを買ってしまえば、「ほら見ろ、やっぱり台湾は中国の一部!台湾省、台湾島!」と中共政府に大喜びさせたくないから。
まして無料でなんて受け取ろうものなら「中共に感謝しろー」と言われ続け、感謝しなければ「台湾は恩知らず」と囃し立てられ続けるに決まってます。
そして、台湾与党も『ひとつの中国』を認めてる!言質取った!とプロパガンダに利用されるのがオチです。
台湾政府的には「ひとつの中国」を認めることだけは絶対ムリってこと。
中国のワクチン提供申し出は台湾世論の分断工作
台湾の皆さんは、中共の思惑をよ~く理解しています。
「ひとつの中国」を支持する台湾人は、大陸経由のワクチン大歓迎です。国台弁の申し出を突っぱねた蔡英文さん+与党民進党を
などと批判して勢いづいています。
参考:国台办:台湾利用不同借口阻止台胞获取大陆疫苗,是大陆疫苗输台最大政治障碍 「国台弁:台湾は口実を設けて大陸ワクチンを阻止 台湾へのワクチン輸出 最大の政治的障害」(ロイター 2021年5月)
中立的立場の人たちからも、「たとえ中国経由のワクチンだとしても、ファイザー+ビオンテック製には違いない」、「とりあえず人命を優先したほうがいいんじゃないか」などの声が上がっています。
香港紙も連携プレーで援護射撃しました。参考:八成台民众 赞成自陆买复必泰 _大公网 「台湾人の8割が大陸経由ファイザー製ワクチンの購入に賛同」(香港大公報 2021年5月)
大公報は香港の新聞ですが、中共系メディア。
こんなふうに、中共の分断工作は功を奏しちゃってるように見えます。人の命がかかってますからね。蔡英文さん、本当に大変だと思う。
参考:台湾に中国製ワクチン受け入れ圧力、感染増加で野党などから | ロイター、台湾が板ばさみ 中国からワクチンを受け取るか、政治的立場を守るか - BBCニュース
「上海復星医薬は、台湾の邪魔をするためにワクチンの権利を横取りした」わけではありません
ファイザー製ワクチンとは
わが国ではなんとなくファイザー製と言っているが、キモとなるmRNAワクチンの技術を持っているのはドイツのBioNTech(以下「ビオンテック」)である。
とは言え、ファイザーとビオンテックは、2018年にインフルエンザ用mRNAワクチンの共同研究をしていました。その研究をベースに、今回の新型コロナワクチンが開発されたということでしょう。
いずれにしろファイザーは当社の開発、薬事、製品化の能力とBioNTechのmRNAワクチン技術を組み合わせる
としているので、このワクチンのキモであるmRNA技術はビオンテックの研究成果ということになると思う。
その後、2020年12月にはイギリスが世界で初めてファイザ-製ワクチンの使用を承認、2021年1月にはWHO(世界保健機関)が緊急使用を承認したのはご存知の通り。
上海復星の契約は、ファイザーより2日早かった
ところがファイザーとビオンテックが共同開発にサインする2日前──2020年3月15日の夜、大陸の製薬大手、上海復星医薬がビオンテックとの戦略的協業を、いち早く発表しています。
つまり、新型コロナワクチンに限って言えば、先にビオンテックと契約したのは復星なのだ。ここんとこ分からずに大陸を批判してる人、けっこう多い。あとになって中国が横やりを入れたり、邪魔したわけじゃないのです。
ファイザー製ワクチンと中国の関係
- ファイザー製ワクチンは、中国大陸で復必泰と呼ばれている。「復星とビオンテックでみんな安心」、「復星で必ず安心」みたいな意味。
- 復星医薬は、武漢ロックダウンから2か月足らずというスピードでビオンテック社の大株主になり、中国大陸、香港、マカオ、台湾で治験、販売を担う権利を取得した。
- 復星とビオンテックは合資会社設立で合意。中国に復必泰の産業化基地を建設して、まずは2億回分の製造を目指し、国内に接種センター1万か所を設置することを目指す。
- 復必泰は大陸では未承認(2021年7月14日現在)。香港、マカオでは承認済みで接種を開始している。
- 香港では復必泰に限らずワクチン接種希望者が少なく、大量に余っている。理由は、香港政府への不信感とされている。参考:香港、未使用ワクチンを大量廃棄の可能性 接種率20%未満 - BBCニュース
「復星医薬はただの販売代理店。開発したのはビオンテックとファイザー。だから台湾が買うワクチンは中国とは無関係」ということでもないかもしれません
台湾2企業がワクチン購入 1000万人分、政府に寄付へ | 共同通信
2021年7月12日付けのニュース。台湾はついにファイザー製ワクチン購入に踏み切った模様です。具体的な手法は次の通り。
- TSMC(台積電)とフォックスコン(鴻海)が購入し、台湾政府に寄贈する。
- 購入先は、上海復星医薬の親会社である復星国際の香港法人。復星国際は日本法人もあるくらいの企業なので、当然香港にも会社があった。
- 数量は、おそらく1000万回=500万人分。共同通信は1000万人分としているが、中国語圏メディアは1000万回分になっている。
- 購入価格は1回分=32米ドルという破格の高額。
- 復必泰の印刷がなく、ドイツのビオンテック工場から出荷されたワクチンに限るという条件を出した。
- 納期は9月頃予定。
ぼったくり価格&遅い納期をわざわざ選んだことにより、台湾としては、大陸から買ったわけじゃないよ!復必泰でもないよ!という雰囲気を作りつつ、ビオンテック+復星医薬の契約にも配慮しつつ、「ひとつの中国」を回避するという落としどころを探ったんでしょう。
しかも、これまでワクチンを寄贈した日米については
参考:日米のワクチン支援で中国が譲歩 ビオンテック製調達=総統府当局者/台湾 | 政治 | 中央社フォーカス台湾
という気遣いまでしています。さすがだ。…けどまあ大陸企業(復星)経由には違いないんですけどね。
復星とビオンテックの戦略的協業とは
復星医薬は、ビオンテックとの提携を戦略的協業と呼んでいます。その中身はーー
- 復星医薬は、中国大陸と香港、マカオ、台湾地域での臨床試験、製品販売申請、販売を担い、必要な費用を負担する。
- ビオンテックは、中国大陸と香港、マカオ、台湾地域での臨床試験に必要な技術、研究データを提供し、臨床試験と販売に必要な製品を供給する。
- 復星はビオンテックにライセンス料として8500万米ドルを支払い、ロイヤリティとして製品売上額の35%を支払うとともに、5000万米ドルを投資してビオンテック株式を取得する。
参考:复星医药重金入局新冠肺炎疫苗产品开发 「復星医薬が新型コロナワクチンの開発に参入」(第一財経 2020年3月15日)、复星医药:启动新冠疫苗战略合作 「復星医薬が新型コロナワクチンの戦略的協業をスタート」(新浪財経 2020年3月15日)
さらに2020年12月30日。復星とビオンテックは、中国大陸でファイザー製ワクチンを製造するための合資会社設立で合意しています。
参考:复星医药将与BioNTech组成合资公司在中国生产新冠mRNA疫苗 「復星医薬がビオンテックと合資会社を設立 中国で新型コロナワクチン製造へ」(ロイター 2020年12月30日)
ファイザー製ワクチン──実はドイツ、アメリカ、中国の共同開発かもしれません
新型コロナのパンデミックで武漢がロックダウンしたのは2020年1月23日。
ビオンテックと復星の契約締結は、そこから2か月も経たない3月15日。
ビオンテックとファイザーの契約締結は、その2日後の3月17日。
で、ここから先は私見ですが──
- 復星は武漢研究所から新型コロナウイルスの詳細データを入手
- 復星はウイルス詳細データ+資金提供と引き替えにビオンテックとの協業を確約(大陸はmRNAワクチンの技術で遅れをとっている)
- ビオンテックがウイルスの詳細データを入手済みと知ったファイザーが、勝算ありと見て乗っかった
みたいな流れが、なんとなく見えませんか?もしそうなら、ファイザー製ワクチンの開発が驚異的スピードで進んだのも納得できるというものです。
だとすると、わが国でファイザー製(つまりアメリカ製)と認識されているワクチン。実は独米中、3か国の共同開発だったとも言えますよね?
てなわけで、いわゆるファイザー製ワクチンの開発に中国大陸がまったく噛んでいないとは言い切れないと思います。
大陸では、2021年7月中にも復必泰の使用を承認するような報道が出ています。シノバック製、シノファーム製がウイルス変異種に効果ナシという雰囲気になっていますからね。(2021年7月13日時点ではまだ承認されていません。)
ファイザーが変異種に対応するワクチンの臨床を開始したという報道もありました。
ひょっとすると、変異種対応ワクチンの開発、臨床が進み、実用化される段階で、大陸はNew復必泰の使用を承認するつもりかもしれませんねー。
あくまでも私見ですよ!
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