まだ辞書に載っていない中国語の新語をひたすら書き連ねていきます
武漢加油/がんばれ武漢(Wuhan, jiayou/Stay strong, Wuhan)
うーはんじゃーよー/がんばれ ぶかん
2020年1月、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが拡大した武漢は、1月23日から都市封鎖を強行。この出来事は各国で報道された。その武漢に対するメッセージとして、大陸観光客でにぎわっていた地域を中心に掲示された文言。
2020年1月下旬、ロックダウン中の武漢。
「ん?ここにでっかいガソリンスタンドでもあるの?」と以前なら思ったかもしれない光景であった。
武汉,加油!/武汉,挺住!
ちなみに「ガソリンスタンド」は加油站である。
加油の歴史は意外と新しい。19世紀、清朝の役人张锳 は教育にとても力を入れていた。夜になると部下に城内を巡回させ、遅くまで勉強している者を見かけると灯油1勺を与えて励ましたそうな。これが転じて、「頑張ってる人を励ます」="加油"になったと言われている(諸説あり)。
この张锳の息子が张之洞 である。加油=「がんばれ」ではありますが、日本語の「フレー!フレー!」みたいに連呼するイメージですな。
挺住は非ネーティブにしてみると、ぱっと浮かばない単語かもしれない。
挺は挺好、挺简单のように副詞「とても」の用法もあるが、他にもいろんな意味がある。ここでは「我慢する」「こらえる」で、そこに結果補語の住がくっついた形。否定形だと挺不住「我慢できない」「こらえられない」。
John Lennonのアルバム『ジョンの魂』に"Hold on"という曲が収録されている。
Hold on John, John Hold on
It's gonna be alright
(John Lennon--"Hold on" 作詞:John Lennonより引用)
この歌詞の和訳で
じっとこらえていろ ジョン
こらえるんだ
すぐによくなるよ
(うろ覚え)
みたいなのがあった記憶がある。
この"hold on"が実に挺住としっくりくる気がするんですがどうでしょう。
なので、武汉,加油!武汉,挺住!と続けて言うと
「フレー!フレー!ぶ・か・ん!じっとこらえるんだ、武漢!」
となりそうではないでしょうか。
そして武漢という地名、一般の日本人にとっては聞きなれない名前だったみたいですね。武漢ロックダウンで大騒ぎになりつつあった時、某テレビ局のニュースで「中国の武漢省」って言ってたのでビックリしました。武漢は省じゃないですよ~。
中国語学習者の皆さんなら、武漢、湖北省と聞いて、ある程度イメージが湧くと思う。
漢詩好きな人なら黄鶴楼を連想するだろうし、三國志好きな人なら赤壁だし、近代史好きな人なら辛亥革命だろう。年季の入ったさだまさしファンであれば「フレディもしくは三教街 - ロシア租界にて -」を思い出すに違いない。
湖北省は、春秋戦国には楚の国。三国志なら呉です。市を貫く河は長江。夏の暑さで知られ、"三大火炉"「中国の三大かまど」のひとつと呼ばれています。
人口は1100万人。1月23日のロックダウン時に、市内に残っていたのは約600万人とされています(政府発表)。4万人の医療従事者が、昼夜を分かたずに感染者の治療に当たりました。新型コロナウイルス感染症による死者数は4000人(政府発表)、2020年上半期のGDPは2割減少しました(政府発表)。
そんな武漢。近頃はコロナもすっかり収まって、イベントやら行楽やらで大はしゃぎしている風景が報じられていますよね。ああいうの見ると、「武漢加油」って何だったっけ…と思ってしまいますが。大陸メディアによれば、コロナによる影響はあくまで限定的、一時的なものだったそうな。
中国城市发展研究院が公表した「2020年都市総合実力ランキング」によれば、上海、北京、香港、広州、深圳に続く第6位にランクインしています。
でも家族や身近な人をなくした武漢市民は、タピオカミルクティー屋の行列を見て、苦々しく思っているようですよ。
最後に、武漢ロックダウン中の2020年2月、日本のいろんな団体がマスクやら医療用品やらを寄贈した時に話題になった文言をおさらいしておきますか。中国語学習者なら知っておくべきかもしれません。中国人の知人が、いたく感動していたので。
- 山川异域,风月同天
元ネタ:长屋王"绣袈裟衣缘" 山川异域,风月同天。寄诸佛子,共结来缘。
7~8世紀、唐に帰る僧侶に長屋王が贈った袈裟(医療用品の比喩)に刺繍されていた詩。国は違っても、風や月は一緒ですよ、という内容。日中友好を語る際に引き合いに出される可能性が高い。 - 青山一道同云雨,明月何曾是两乡
元ネタ:王昌龄《送柴侍御》 沅水通波接武冈,送君不觉有离伤。青山一道同云雨,明月何曾是两乡。
7~8世紀、唐代の送別の詩。離れ離れになっても君と同じ山や空を見るよ、月も一つだけだから同じものを見てるよ(ロックダウン中の市民を譬えているっぽい)、という内容。 - 辽河融雪,富山花盛开;同气连枝,共盼春来
富山県が遼寧省に贈った物資に貼られたオリジナル詩。遼河の雪が溶ける頃、富山では花が咲くよ、同胞として共に春の到来を待とうね(春=ロックダウン解除)、という内容。 - 岂曰无衣,与子同裳 元ネタ:紀元前西周~春秋、《诗经》 "秦风·无衣"
なぜ着る物がないなんて言うんだ、この戦袍(医療用品)を分け合って戦おうじゃないか、という内容。
「支援物資に貼られた漢詩が、中国の皆さんの感動を呼んでいます!」なんて報道されてましたよね。そんなふうに素直に喜んでくれた人民も大勢いたことでしょう。私の知人も含めて。でも「なんだよ日本、上から目線だな」という声もあったことをお伝えしておこう。
気持ちは分かる。もしも逆の立場だとして、大陸から届いたダンボールに「あしびきの~」とか「ちはやぶる~」とか書かれていたら、どう感じるかってことですよ。
しかしこの行為が、1か月後にはパクられて受け継がれて中共政府の「マスク外交」に進化していこうとは、HSKの中の人も想像してなかったことだろう。
参考:「鯨波万里なるも、一葦航るべし」 文化の趣漂う中国からの援助物資 (2)--人民網日本語版--人民日報
3月下旬、 浙江省がイタリアに寄贈した物資。"浮云游子意,明月故乡情"と書いてある。
李白の詩《送友人》 浮云游子意,落日故人情 のアレンジだそうです。
「友を送る」 浮雲は旅立つ君の心のようで 落日は見送る私の情のようだ
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