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台湾の新型コロナワクチン問題で日本人が誤解しがちなこと1

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みんな大好き台湾がここに来て新型コロナワクチン不足に陥っている問題。

ヤフコメ、ツイッターなんかを見ると、誰かが憶測で「〇〇らしいよ」、「〇〇なんでしょ?」とカキコし、それが「〇〇だそうです」になって、いつのまにか事実みたいになっている。

正しい情報ならいいんだけど、誤解も多い。なので、このところSNSやら掲示板やらを見ていてそれ違うんだよなーと思った点を書いてみる!

 

日本が台湾に寄贈したアストラゼネカは「日本がイギリスから輸入したけど使い道がなくて困っていたもの」ではありません

2021年6月4日、日本航空の臨時便、JL809が台湾に到着。アストラゼネカ製ワクチン124万回分を台湾に寄贈しました。

このワクチンは2021年4月中旬に、日本で製剤化されたものです。輸入したけど使えなくて持て余していたものではありません。

日本で製剤化されたアストラゼネカ製ワクチンとは

2020年12月、アストラゼネカと日本政府は、1億2000万回分のワクチン供給で合意した。

アストラゼネカは2021年3月までにワクチン原液3000万回分を日本に提供。残り9000万回分の原液は、JCRファーマが日本国内で製造する。つまり報道でよく見るワクチンの入った小瓶(バイアル)の形で輸入したものは存在しないってこと。

原液を製剤化するのは、第一三共バイオテック第一三共グループ)、KMバイオロジクス(明治グループ)の2社。保管と配送は、どちらもMeiji Seikaファルマ(明治グループ)が行う。

2021年3月11日、第一三共バイオテックがワクチンの製剤化を開始。3月19日にはKMバイオロジクスもワクチンの製剤化を開始している。どちらも輸入されたワクチン原液3000万回分を利用したもの。

よって、茂木外務大臣が「当面3000万回分のアストラゼネカ製を確保しているので~」とか言っているのは、輸入した原液を使って第一三共バイオテックとKMバイオロジクスが現在せっせと製造している分を指しているんでしょう。

日本が台湾に送った124万回分は、日本の工場から出荷された

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箱が日本語表記であり、meijiのロゴがある。Meiji Seikaファルマが保管・配送したということだと思われる。

製剤化したのが2社のうちどちらかは非公表だが、明治HDグループのKMバイオロジクスなのではないかな?と個人的には思っている。

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瓶にも日本語でアストラゼネカ株式会社とある。残念ながら製剤化元は分からない。

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ちなみに、日本からの124万回分より前に台湾が購入した計約78万回分のアストラゼネカは、すべて韓国で製剤化されたもの。瓶の外見からして違う。
参考:AZ疫苗日本廠已交製程資料 食藥署力拚7天驗畢アストラゼネカ製ワクチンの日本工場から製造工程資料を受領済み 7日で検査完了を目指す」(台湾中央社 2021年6月6日)

2021年6月16日、日本政府はベトナムアストラゼネカ製ワクチン100万回分を無償供与したが、これは第一三共バイオロジクスが製剤化したものだった。
参考: 新型コロナ: 第一三共、ベトナム向けにアストラゼネカ製ワクチン出荷: 日本経済新聞

台湾の124万回分も第一三共だとしたら、「アレうちのでーす」と公表したと思うんだよね。でもしていないってことは、やはりKMバイオロジクス製だと思われる。でもKMバイオロジクスも何も言っていないので、どちらも中共政府に知られたくなくて公表していないのかもしれない。

参考:第一三共、英AZの新型コロナワクチン、国内製造を開始 | 化学工業日報新型コロナ: KMバイオ、アストラゼネカのコロナワクチンを製剤化: 日本経済新聞

 

「日本が台湾に寄贈したワクチンは、使用期限切れ寸前の在庫処分品」 ではありません

主に大陸網軍や日本ヘイトな人たちが、このようにコメントしていますが、間違い。

アストラゼネカ製ワクチンの使用期限は、製造から6か月。最近では9か月に延長する動きも出ています。
参考:インド、アストラのワクチン使用期限の延長認める=資料 | ロイター

で、6月4日に台湾に到着したワクチンの使用期限は2021年10月です。4月に日本で製剤化されたってことですね。
参考:今天援台124萬劑AZ疫苗 是第1批「日本製造」新鮮直送アストラゼネカ製ワクチン124万回分が今日到着 MADE IN JAPANは出来立てを直送」(台湾自由時報 2021年6月4日)

この記事には10月とだけありますが、衛生福利部の陳時中部長が記者会見で「使用期限は10月14日。かなり余裕があります」と言っていました。

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COVAXのワクチンは期限切れ間近だった

日本のワクチンが到着するまで、実は台湾も使用期限をとても心配していた。その理由は、以前受け取ったアストラゼネカ製ワクチンが使用期限ぎりぎりだったから。

参考:第2批AZ疫苗5月31日到期 接種壓力大 「第2便のアストラゼネカ製ワクチンは5月31日で使用期限切れ 至急接種を」(台湾聯合新聞 2021年4月5日)

  • 2021年3月3日到着
    アストラゼネカから購入したワクチン(韓国で製造)の使用期限は6月15日。この頃、台湾では新規感染者がとても少なく、接種希望者も少なかったが、計11万7000回分を使い切った。
  • 2021年4月4日到着
    COVAXファシリティを通じて購入したアストラゼネカ製ワクチン(韓国で製造)の使用期限は5月31日。計19万9200回分を使い切った。

参考:看台灣採購疫苗到貨進度表 莫德納、AZ又差異在哪? 「購入済みワクチンの納品進捗 アストラゼネカとモデルナの違いは?」(台湾聯合新聞 2021年4月5日)

という苦労をしていたんです。数量が少なかったからいいものの、大変だったと思う。COVAXはちゃんと仕事してほしい!(日本は10億ドル拠出してるので言ってみた)

「台湾政府が6月初旬時点で承認済みだったワクチンはアストラゼネカ製だけ」 ではありません

台湾で使用承認されているワクチンはアストラゼネカだけ!だから日本がアストラゼネカを送ったのは非難されることではない!みたいなコメントをよく見ますが、これ間違い。

2021年5月5日、台湾政府はモデルナ製を承認しています。

台湾政府が使用承認しているワクチン

台湾政府が2021年6月27日時点で使用承認しているのは、アストラゼネカ製とモデルナ製の2種類。

参考:疫苗簡介 - 衛生福利部疾病管制署 (ワクチンの承認状況)

2021年2月20日、韓国、ドイツ、イタリアが製造したアストラゼネカ製ワクチンの緊急使用を承認

参考:AZ緊急授權通過 疫苗抵台最快7天內可接種アストラゼネカ製ワクチンの緊急使用を承認 到着から7日以内に接種開始予定」(台湾聯合新聞 2021年2月20日

2021年5月5日、モデルナ製ワクチンの緊急使用を承認

参考:莫德納疫苗獲緊急授權 自費AZ疫苗供應不間斷 「モデルナ製ワクチンの緊急使用を承認」(台湾中央社 2021年5月5日)

2021年6月11日、日本が製造したアストラゼネカ

日本で製造したアストラゼネカ製については未承認でしたが

  • 韓国で製造したのと差はないと判断した
  • 審査に必要な書類が揃っていた

ということで、6月4日の到着から7日以内に検査を済ませ、速やかに接種を開始すると発表した。

参考:高雄急行軍 日本贈台AZ疫苗12日下午開打 「高雄に緊急輸送 日本寄贈のアストラゼネカ製ワクチン 12日午後から接種開始」(台湾中央社 2021年6月12日)、【全台灣AZ疫苗開打】日本「宇美町」施打法效率高•最快半小時注射150位長者 北中南醫護紛採行 「全国でアストラゼネカ製ワクチン接種開始 30分で高齢者150人に接種可能な日本の宇佐美町方式を採用」(台湾英字新聞 2021年6月15日)

審査中なのはファイザー、ジョンソンエンドジョンソンと国産の高端

現在は、ファイザー製とジョンソンエンドジョンソン製についても使用承認を検討中。
参考:食藥署證實 嬌生、BNT疫苗將獲緊急使用授權 「食品薬物管理署 ジョンソンエンドジョンソン製、ファイザー製ワクチンの緊急使用承認を検討」(台湾中央社 2021年6月10日)

6月15日には、台湾のワクチンメーカー、高端疫苗生物が第2相試験を終了し、使用承認を申請。
参考:高端疫苗拚上市 解盲、二期臨床試驗一次看懂 (台湾中央社 2021年6月15日)

6月27日には、同じく台湾の聯亜生技開発が第2相試験の結果を良好と発表している。近々承認申請すると思われる。
参考:國產疫苗聯亞藥二期試驗「無不良反應」 拼7月獲EUA後施打(台湾UpMedia 2021年6月27日)

「台湾では日本で製造されたアストラゼネカ製ワクチンは不人気」ではありません

まずはデータで見てみましょう。

接種状況の推移~台湾政府発表

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  • 橙色の折れ線グラフ=接種回数(累計)
  • 黄色の棒グラフ=新型コロナ新規感染者数
  • 紫の折れ線=感染者数の7日平均

橙色の折れ線が急激にぐーんと伸びている。ちょうど紫の折れ線とクロスしているところが、日本が送ったワクチンの接種が始まった6月12日。まさにこの日から接種回数が急増しているよね?

いっぽう、新規感染者数は順調に減っている。「接種しなくてもいっか~」というムードになりそうなところを、台湾の皆さんは日本が送った分を頑張って消化していることが分かる。どこが不人気なの?

接種状況の推移~Our World in Data

下のリンクを各自ご覧ください。

Coronavirus (COVID-19) Vaccinations - Statistics and Research - Our World in Data

6月10日から接種人数が激増しているのが一目瞭然。どこが不人気なの?

国民党の重鎮たちもアストラゼネカ製を接種

台湾政府は、ワクチン接種の優先順位をきっちり決めていて、
医療従事者→警察官→介護事業者→軍人→高齢者…
のような順番になっている。参考:嚴重特殊傳染性肺炎 - 衛生福利部疾病管制署

ところが──

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与党民進党のワクチン政策を日々批判している台湾国民党の政治家さんたちが、実はこっそりアストラゼネカ製ワクチンを接種していたことが判明。

この政治家さんたちは

  • 日本人が捨てたワクチンを、台湾は拾わない!
  • 民進党政府はワクチン乞食!
  • アストラゼネカは、どこでも余ってる欠陥ワクチン!
  • 中国製ワクチンを承認しろ、そしたら真っ先に接種する!

などと発言していた。素晴らしいブーメランっぷりである。

参考:張顯耀特權打疫苗 高市開罰1.5萬 「張顕耀元立法委員 ワクチン優先接種で高雄市が罰金1万5000台湾ドルの支払いを要求」(自由時報 2021年6月27日)

ま、これらは少し前(5月)の話なので、日本が寄贈したワクチンではなく、台湾が購入した分の韓国で製造されたワクチン=有料接種の分ではありますが。

 

台北なら、いち早くワクチンを打てそうだから」と台北市に来る人が増えたり、優先接種対象である空港職員、公共交通機関の運転手などを装って接種しようとする人々の話題も日々報道されている。

よって、日本で製造したアストラゼネカ製ワクチンが不人気というのは間違い。

  

まだまだありますが長くなりそうなので、今回はこのへんで~。

 

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