毎日一語、中国語～中国復星医薬のファイザー製ワクチン

まだ辞書に載っていない中国語の新語をひたすら書き連ねていきます

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中国復星医薬のファイザー製ワクチン（China Fosun's mRNA COVID-19 vaccine ／BNT162b2）

中国大陸の製薬会社、上海復星医薬とドイツのBioNTech（以下「ビオンテック」）が上海に設立した合資会社で製造、販売する予定の、いわゆるファイザー製ワクチンのこと。

ファイザー製ワクチンは、米国のファイザーとビオンテックが共同開発した新型コロナウイルスのmRNAワクチン。日本での商品名は「コミナティ筋注」、開発コードはBNT162b2（以下「BNT」）。

わが国ではなんとなく「ファイザー製ワクチン」と言っているが、BNT開発の発端はビオンテックである。ファイザーはビオンテックと提携して、研究、開発、治験、製造、販売管理を行っている。

中国復星医薬のファイザー製ワクチン（China Fosun's mRNA COVID-19 vaccine ／BNT162b2）
复必泰 [Fùbìtài]

复必泰 [Fùbìtài]

"复必泰"は、ファイザー製ワクチン＝BNTの中国語圏での商品名。この名前は2021年1月頃から使われ始めたようです。"上海复星医药" [Shànghǎi Fùxīng Yīyào]（以下「復星医薬」）がビオンテックとライセンス契約を結び、BNTの製造販売を行うことが決まっています。

復星医薬とは

1994年に設立された中華人民共和国の製薬企業。親会社は、1992年創立のコングロマリット、復星国際。Forbesの2021年Global2000では、459位の復星国際とともに1876位にランクインしている。

f:id:coelacanthidae:20210527231955j:plain Baidu.com

復星国際は投資ファンド、不動産業、金融などに事業を展開する多業種巨大企業。日本にも支社があり、2015年に北海道の星野リゾートトマムスキー場を買収したことで知られている。

復星医薬も、これまで国内、国外（イスラエル、インド、フランス）の医療系企業に出資やM&Aを行ってきた。日本の創薬ベンチャーもターゲットに入っているらしい。

復星医薬とビオンテックの提携

ここからは時系列で見てみます。

2020年1月23日

感染症のパンデミックにより武漢が都市封鎖。

2月

WHOが新たな感染症をCOVID-19と命名。

3月15日

復星医薬が、ビオンテックから中国でのBNTの独占的開発と商業化の権利を得たことを発表。

復星医薬はビオンテックに1億3500万ドルを出資し、ビオンテック株式158万株を取得。中国大陸、香港、マカオ、台湾でBNTの治験、販売を担う。

ビオンテックは復星医薬に技術とデータを譲渡して治験に協力し、販売用のBNT製品を提供する。

参考：复星医药：启动新冠疫苗战略合作「復星医薬新型コロナで戦略的提携スタート」（新浪財経 2020-03）

3月17日

ファイザーがビオンテックとの提携を発表。新型コロナワクチン候補BNTの共同開発を行い、世界での開発を加速するとした。

参考：ファイザーとBioNTech社、COVID-19ワクチン候補の共同開発両社は、COVID-19感染予防のためのBioNTech社のmRNAワクチン候補BNT162を共同開発両社の専門性とリソースを活かし、BNT162の世界での開発加速を目指す 2018年のインフルエンザに対するmRNAワクチンの共同開発契約に基づく（ファイザー公式 2020-03）

世界的な製薬大手であるファイザーが参入したことで、BNTは、生産体制、物流、販売管理の面でアドバンテージを得る。

この直後、BNTの販売に関して、「ファイザーが中国を除く各国で販売する」と報道されたため、大陸では「アメリカの中国外し」と大反発が起きた。これに対し、ファイザーは「中国での販売は復星が担うことになっているという意味だ」と釈明した。

中共政府も火消しに走った。参考：辉瑞拒绝向中国提供新冠肺炎疫苗？假消息！「ファイザーが中国への新型コロナワクチン提供拒否はフェイクニュース」（人民日報 2020-03）

9月

復星医薬が大陸最大手の国営製薬企業、シノファームと提携。BNTの冷凍保存と輸送を共同で行うと発表する。

参考：复星医药与国药控股签署关于BioNTech mRNA新冠疫苗物流合作协议「復星医薬とシノファームがビオンテックのmRNAワクチンの物流協力で合意」（新浪財経 2020-09）

11月

ファイザーがBNTの第3相試験で新型コロナに対する有効性が90％以上に達したと発表。

12月

2日、第3相試験中だったBNTの使用を英国が承認。

8日、英国で一般への接種が始まる。その後、米国、カナダ、オーストラリア、シンガポール、フィリピン、香港などが続々とBNTを承認。

30日、復星とビオンテックが合資会社の設立を発表。中国にBNTの産業化基地を建設して、まずは2億回分の製造を目指し、国内に接種センター1万か所を設置することを目指す。

参考：复星医药将与BioNTech组成合资公司在中国生产新冠mRNA疫苗「復星医薬がビオンテックと合資会社を設立、中国で新型コロナのmRNAワクチンを製造」（ロイター 2020-12）

2021年1月

1日、WHOがBNTの緊急使用を新型コロナワクチンとして初承認。

25日、香港政府がBNTの緊急使用を許可。

2021年2月

17日、日本でBNTの接種開始。

23日、マカオがBNTの緊急使用を許可。

27日、香港、マカオにドイツで製造されたBNTが到着。

参考：复星医药和BioNTech共同宣布首批mRNA新冠疫苗抵达中国香港和澳门「復星医薬とビオンテックが共同声明　初回のmRNA新型コロナワクチンが中国の香港とマカオに到着」（復星医薬公式 2021-02）

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2021年5月

復星医薬とビオンテックが、上海に合資会社を設立し、BNT"复必泰"の製造販売を行うことで合意。

台湾がファイザー製ワクチンを買えない問題

このところ日本でも報道されている中国が台湾のファイザー製ワクチン購入を邪魔している問題。一方的に大陸が悪者になっているような雰囲気ですが、時系列で見ると、台湾の入る余地はないことが分かります。

台湾がビオンテックと交渉を開始したのは、報道上では2020年10月でした。参考：東洋代理BNT疫苗破局！「東洋薬品の新型コロナワクチン契約失敗」（台湾自由財経 2020-11）

そして2021年2月くらいから、台湾政府が文句を言い始めます。参考：台湾、独ワクチン確保ならず中国が介入か（フォーカス台湾 2021-02）

さらに5月になって蔡英文さんも中共を批判します。参考：台湾と独ビオンテックのワクチン契約、中国が妨害＝蔡総統（ロイター 2021-05）

とは言え、これは仕方ないですね。上の時系列を見ると、台湾の不運が連鎖的に発生していることが分かると思います。たとえばー

復星は、武漢ロックダウンから2か月足らずというものすごいスピードでビオンテックへの出資と販売権獲得の契約までこぎつけた。交渉開始はもっと前からだったろう。この頃、たぶん中共とドイツは蜜月だった。
ビオンテックは、販売ライセンスの範囲に台湾が入っていることを気にせず、復星と合意した。ドイツ政府が中共と親密だったことも影響したかもしれない。
台湾は、秘密裏にワクチン確保交渉を進めていたらしい。中共に邪魔されることを恐れたんだろうけど、復星の動きがあまりに早く、今更な感じになってしまった。
台湾も早期にどこか有望な製薬会社に出資しとけばよかったが、1年前くらいだと、どこのワクチンが有望なのか、誰にも分からなかった。
COVAXファシリティが役立たず過ぎた。テドロスさんが大陸をひいきし過ぎた。大陸企業と独占契約とかしてないであろうモデルナ製、アストラゼネカ製すら、台湾に十分回っていない。
大陸メディアの一部がBNTのことを「復星とビオンテックが共同開発したワクチン」などと報道していたことも、台湾を異常に警戒させた。
大陸メディアの一部は「復星医薬は大中華エリアにBNTを独占的に販売する」と報道していたが、台湾人からすると台湾≠大中華エリアなので関係ないと思っていた。つまりビオンテックと直で取引できると思っていた。まあ政府は分かってたでしょうけど。

で、最近になって中共政府が台湾にBNTを供給すると言い出して、蔡英文総統が突っぱねたりしてましたね。

これについて、台湾の親中共野党、親中共企業、国民も、大陸からワクチンを入手すべきと主張。ホンハイの郭台銘さんなんかは復星と独自に交渉してBNTを入手する意向を表明しています。直近ではビオンテックと直談判するとも言っています。参考：郭台銘搶疫苗親上臉書報告疫苗進度「郭台銘がワクチン確保自身のFacebookで進捗を報告」（台湾聯合 2021-05）

中共政府が"台湾人宁死也不要打中国疫苗"（台湾人は死んでも中国ワクチンを打ちたくない）とか煽っているのもよくない。

台湾ネットを見ると、「中国ワクチンと言ってもドイツ製なら問題ない」、「民進党は国民よりもメンツが大事なのか」とか「ドイツ製でも大陸を経由したものは信用できない、何か細工をするかもしれない、直接買わないとダメ」とか意見が割れちゃってます（大陸の工作も入ってるかもしれないけど）。

そこへ来て茂木大臣の「使用予定のないアストラゼネカ製を台湾に送って恩に報いたい」でしょ？台湾人は福島産食品の輸入に強硬に反対してるという背景もあります。「日本は台湾に恩を着せて"核食" [héshí]（"和食"と同音）を輸出したいんだろう」、「日本が要らないものを台湾で処分しようとしている」と非難ごうごうだよ…。参考：批踢踢實業坊　日本的AZ你收不收? （台湾PPT）

大陸ネットもアストラゼネカ製を「血栓ワクチン」とか呼んでさらに煽ってるし、香港では期限切れのファイザー製を廃棄するみたいだし。日本政府は「COVAXを通じて台湾に送る」と提案してるみたいだけど、なんかもう悲しい；；

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