しーらかんす式

音楽と日本語と中国語のブログ

毎日一語、中国語~デカップリング、中国はずし

まだ辞書に載っていない中国語の新語をひたすら書き連ねていきます

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カップリング (decoupling) 

カップリングは名詞で、分断、分離、切り離しのこと。化学、電子工学など学術分野では、非干渉化、関係弱体化、減結合のように訳されている。

カップリングしてたもの(今までくっついてたもの)をなかったことにするからデカップリングってことですね。

カップリング、このところ、米国と中華人民共和国の対立の話題で、日本人の評論家さん、学者さんたちがさかんに使ってますよね。

参考:独外相、中国とのデカップリングは「間違った道」 | ロイターテクノロジーのデカップリング、貿易戦争よりGDPに影響大-IMF - Bloomberg火星でも米中が主導権争い!? 宇宙開発分野で進む中ロと民主主義陣営のデカップリング:東京新聞

このような使い方の場合、カップリング=中国はずし、脱中国依存と解釈できます。

具体的にはトランプ元大統領が頑張ってたファーウェイとかTik Tokに対する制限など、重要な技術、機密情報、知的財産権、安全保障に関わる分野で、デカップリングの動きが出ています。

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しっかし日本人はカタカナ語好きよね!そのうち「エビデンス」とか「インセンティブ」みたく芸能人コメンテーターが「でもさ、中国をカップリングなんて無理筋っしょ!?」とか言い始めるかもしれん。

 

 

 

脱钩 [tuōgōu]

学術用語としてのデカップリングは、"去耦合" [qù ǒuhé]"解耦" [jiě ǒu]でしたが、今回は"脱钩"でキマリです。なぜなら習近平主席も言っているから!

在经济全球化时代,开放融通是不可阻挡的历史趋势,人为“筑墙”、“脱钩”违背经济规律和市场规则,损人不利己。

全文来了!习近平在博鳌亚洲论坛2021年年会开幕式上的视频主旨演讲新華社 2021-04)より引用

経済グローバル化の時代、開放、流通は阻むことのできない流れだ。人為的な「壁」、「デカップリング」は経済規律と市場ルールに反しており、自国にとっても他国にとっても損失である。

2021年4月20日、中国のハワイこと海南省で毎年開催されているボアオ・アジアフォーラム(博鳌亚洲论坛 [Bó'áo Yàzhōu Lùntán])での習近平さんのスピーチ《同舟共济克时艰, 命运与共创未来》の一節です。

でも、“脱钩”と、引用符付きなので、ボクたちが主張してるんじゃないよー、クアッドとかファイブアイズとかが理不尽なこと言ってるんだよー、という感じでしょうか。

"脱钩"は列車の連結を解除すること

"脱钩"は辞書にも載ってまして

政府与企业脱钩

小学館中日辞典・第2版』より引用 

とのことです。

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厳密に言うと動詞+目的語構造なので、デカップリングではなくカップですね。ちなみに対義語は"挂钩" [guàgōu]で列車などを「連結する」の意味です。

"脱钩"は海外メディアの中国語版や台湾メディアも使ってます。

德國外長:歐盟須與中國往來 脫鉤是錯誤之路(「ドイツ外相:EUと中国の往来 デカップリングは間違った道」台湾聯合新聞 2021-04)

與中國「脫鉤」的時代來了嗎?(「中国とのデカップリング時代到来か」ニューヨークタイムズ中国語版 2019-04)

もちろん大陸メディアも使ってます。

轮到中方与美国脱钩!中方亮王牌后,美媒开始坐不住了(「今度は我々がアメリカとデカップリングする番だ!中国の切り札にアメリカ大慌て」ネットイース 2021-04)

この「切り札」というのは人民元のことだそうです。世界で存在感を増す人民元アメリカは無視できるかな?できないよね!と言っています。この記事の場合、「今度は我々がアメリカを切り離す番だ!」と訳したほうがよさそうですね。連結器だし。

中国語圏にとって新語ではない「デカップリング」

実は、デカップリング="脱钩"の翻訳は最近開発されたものではありません。2008年の米リーマンショックあたりから始まったデカップリング論でも"脱钩"という中国語をあてていました。

このときは米国経済が急激に落ち込み、先進国がその煽りを受けるなか、中国をはじめとする新興国の経済は好調をキープ。で、多くの国がこぞって中国との経済的結びつきを強めていった、つまり"挂钩"に走ったんですね。

それなのに、ここんとこ中国をデカップリングする話題(以下「中国切り離し」)が持ち上がっているわけです。中国から見れば、今までガッチリと連結して同じ方向に走っていた車両を、急に切り離されるような感覚でしょうか。

中国切り離しで「双循環」見直しか?

習近平主席の政策に「双循環」(ふたつの循環、ダブル循環)というのがあります。簡単に言うと

  • 14億の人民をそこそこ豊かにすることで、内需を増やして経済を循環させる
  • 大陸製品を海外にたくさん輸出して、経済を循環させる

ということで、内と外から同時に大陸経済を強くしよう!ってこと。そこへ出てきたのが中国切り離しです。

で、前述のボアオ・フォーラムではこんなことも話題になりました。

博鳌新视野:经济学者吁“双循环”应“内外兼修”(「ボアオで新視点:エコノミストが『双循環』を『内部循環と外部循環』に修正するよう訴える」中国新聞 2021-04)

これまでの輸出依存経済を改め、先に国内経済を強くしよう、海外への輸出とは別個に考えよう、みたいな主張のようです。

具体的にどうするのかはよく分かりませんが、中共政府もさまざまな対策を講じているようです。

中国語脳内の「デカップリング」を考察

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カップリングは日本語では、米中デカップリングカップリング拡大カップリング戦略みたいに使われています。

いっぽう中国語では、"与中国脱钩" [yǔ Zhōngguó tuōgōu]、つまり「中国と"脱钩"する」→「中国を切り離す」と使ってるんですよね。

ってことは、米中デカップリングの話題を見聞きするとき、中国語ネーティブの脳内には連結した列車の図が浮かんでいるのかな?

だから習近平さんは"同舟共济克时艰" [tóng zhōu gòng jì kè shíjiān](同じ船で、共に難局を乗り切ろう)と乗り物つながりで訴えたのかも!

よく理解せずになんとなく「デカップリング」とか使っちゃう日本語に対して、何でもいったん漢字にする中国語ならではのオモシロ現象かも??

 

 

コトバは生き物です。上記はあくまでも現時点で主流の言い方です。