まだ辞書に載っていない中国語の新語をひたすら書き連ねていきます
ラップ(rap/rhyming)/ヒップホップミュージック(hip hop music)
皆さんはラップとヒップホップの違いをご存知か?私はよく分かってなかった。てか分かってる気がしてたけど実は分かってなかったということが分かった。
- ラップ
音楽に乗せて韻を踏んだ言葉(ライム)を発する音楽のこと。このライミングをする人のことをラッパーまたはMCと言う。 - ヒップホップ
音楽、ダンス、落書き、ファッション、用語などをひっくるめた黒人文化の総称。 - ヒップホップミュージック
ラップ、DJ、ビートボックスを含む音楽の総称。
ということで、ラップとヒップホップ音楽は微妙に違う。でもほとんどラップ=ヒップホップミュージックでいいらしいから、気にせず使ってほしい!
饶舌 /说唱 /嘻哈音乐
说唱は、打楽器の演奏などに乗せてストーリーや主張を語る伝統的な大道芸のこと。日本の辻説法や講談に近い。饶舌は、说唱で行われる早口の語りのこと。
その伝統芸の名前が「ラップ」の意味でも使われてます。後ろに音乐 を付けて饶舌音乐、说唱音乐とも言う。
嘻哈は、hip hopの音訳。笑い声の擬声語である嘻嘻哈哈とは関係ないらしい。でも字面から受ける印象が楽しそう^^
嘻哈 (しーはー)がなぜヒップホップの音訳なのか?その理由はおそらく香港にある。広東語の発音は嘻哈 (へい・はー)でhip hopに近い。
大陸では現在、ラップやヒップホップ音楽が盛り上がっているらしい。上に書いた3種類の訳語は、大陸では同じような意味で使われている。同じものに3種類も呼び名があるって面倒くさくないのかね?もちろん英語のRapも併用されている。尚、愛知大学の中日大辞典に拉普という訳語が載っているが、これは今のところ使われていないので注意しよう。
中国語ラップの元祖はおそらく香港。90年代からラップを取り入れた曲が作られていたし、国語バージョンもあった。软硬天使ってラップグループもいた。台湾でも罗大佑、猪头皮、伍佰老师なんかがラップを取り入れていたはず。
そして大陸では崔健アニキがやっていた!1994年のアルバム《红旗下的蛋》では、"飞了"で怒涛のラップを披露している。崔健はすでに海外で注目されていたし、積極的に海外のロックを研究していたはずなので早かったんでしょうね。続く1998年のアルバム《无能的力量》でも激しいラップと伝統楽器を組み合わせた崔健ワールドを炸裂させている。カッコイイ!
しかし崔健の基本はあくまでもロックであり、メッセージ表現の手法としてラップを取り入れたにすぎない。その意味では数々の洋楽アーティストがやってきたことと同じ。
本格的なヒップホップ音楽が大陸で誕生したのは、たぶん2010年頃。韓国ポップスの影響もあったとか言われている。西部地域(成都とか西安とかあっちのほう)を中心にラップ集団が形成され地道に活動していたそうな。
そう言えば2010年頃から日本に来る中国人留学生にヒップホップ系の恰好をする男子が目立つようになった気がする。(ちなみに以前はたいていチェックのシャツかTシャツにGパンでした。)どういうのかというと
こういうの↑です。(ヒジョーに周杰伦っぽいv)あと野球帽とかネックレスとかピアスとかね。で、「黒人音楽とかが好きなの?何聞いてるの?」と聞いてみたけど、全然知らないんですよね。自分らのやってるファッションがアメリカ黒人の真似ってことも知らない。ただそういう格好してるだけ。でもフツーにヒップホップ系ファッションが流行ってたんでしょうね。当時中華圏女子に大人気だった周杰伦風にちょい不良っぽさというか黒人テイストを追加した感じ。調達先はユニクロとか原宿とか御徒町なんだって。
さて、そんな折に大陸で始まったのが《中国有嘻哈~The Rap of China》というWeb番組。フリースタイルバトルを取り入れ、かなりの人気を集めたんだって。まあもともと韻を踏むのが大好きな民族ですからね。
そのフリースタイルで最後まで勝ち抜いたのがこの人
PG Oneさんです。
中国語に英語をプラスして韻を踏みまくってます。あと"中二病"とか"Muramasa"とか日本語を取り入れた曲もあるんだよね。しかし同音異義語の多い中国語だから、韻も踏み放題ですな。
聴いてみたところ、日本のラップよりカッコイイんではないか?と思いました。中国語部分はちゃんと中国語のアクセント、抑揚になっていて「中国語ラップ」という新たなジャンルを確立してる雰囲気がある。
ワケあってPG Oneさんは現在干されてるみたいですが、You Tubeに公式チャンネルもあるので、興味ある人はご一聴ください。
参考:PG One - YouTube(PG Oneさんの公式チャンネル)
ここでついでに関連用語
で、このように新しい若者文化が勃興してくると、決まって出てくるのが广播电影电视总局、通称广电总局。2018年1月に出されたラップ禁止令は日本でもちょっと話題になったんですってね。
在国家新闻出版广电总局的宣传例会上,宣传司司长高长力提出广播电视邀请嘉宾应坚持“四个绝对不用”的标准,即:对党离心离德、品德不高尚的演员坚决不用;低俗,恶俗、媚俗的演员坚决不用;思想境界、格调不高的演员坚决不用;有污点有绯闻、有道德问题的演员坚决不用。另外,总局明确要求节目中纹身艺人、嘻哈文化、亚文化(非主流文化)、丧文化(颓废文化)不用。
出典:总局提出节目嘉宾标准:格调低纹身嘻哈文化不用 「広電総局がテレビ番組ゲストのブッキング基準を発表 低俗、タトゥー、ヒップホップカルチャーは起用しない」(新浪2019-01)
広電総局の宣伝定例会議において、宣伝司の高長力司長は、テレビ番組にゲストを呼ぶ際、「4つの絶対に起用しない」基準を堅持するよう提起した。具体的には
- 共産党に反目し、品性が高尚でないタレントは断固起用しない
- 低俗で不良で時代に迎合するタレントは断固起用しない
- 思想的な立場、格調が高くないタレントは断固起用しない
- 汚点、スキャンダルがあり、道徳上問題があるタレントは断固起用しない
また総局は、刺青のある芸能人、ヒップホップ文化、サブカルチャー(非主流文化)、喪文化(退廃文化)を番組に用いないよう明確に求めた。(しーらかんす訳)
この文章は今でも簡単に見つかるんですが、政府の法令データベースや公文書の中にはないんですよね。でも番組制作者はすぐさま従いました。明文化されたものでもないのに徹底してるなぁ。
そんなわけで2018年1月以後、大陸のヒップホップ文化は苦境に立たされているそうです。前述の人気Web番組《中国有嘻哈~The Rap of China》第2期も実現が危ぶまれています。ほんの数年前までは↓こんなことしてたのに。
あと大陸礼賛ラップ"听好了 这才是中国!"、香港台湾独立批判ラップ"红色力量"で知られる天府事变なんかはどうなんだろう?YouTubeの再生数を見る限りでは前述のPG One氏に桁違いで負けている(英語で歌ってるのに)。見た感じもちょい垢抜けない。
まあ結局は歌詞なんでしょうね。
崔健さんは共産党に睨まれつつも信念を貫いてロックをやり続け、最近ではCCTVの春晩(大陸版NHK紅白歌合戦)からお呼びがかかったりもしている(もちろん辞退したv)。あきらめずに信じる道を歩んでいれば大陸ラップもそのうち認められると思うぞ。がんばれ~!
関連記事
毎日一語、中国語~喊麦(地下ラップ、講談ラップ) - しーらかんす式
毎日一語、中国語~アナログレコード(vinyl record) - しーらかんす式
毎日一語、中国語~CD、LP、DVDなどの帯(obi strip) - しーらかんす式
毎日一語、中国語~パリピ(party people) - しーらかんす式
毎日一語、中国語~フーディー(ファッション用語) - しーらかんす式
毎日一語、中国語~グレート・ファイアウォール - しーらかんす式
毎日一語、中国語~ようつべ(YouTube) - しーらかんす式
コトバは生き物です。上記はあくまでも現時点で主流の言い方です。