しーらかんす式

音楽と日本語と中国語のブログ

毎日一語、中国語~ワーテルロー(比喩表現)

まだ辞書に載っていない中国語の新語をひたすら書き連ねていきます

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ベルギーの地名。1815年、ナポレオン率いるフランス軍が、イギリス、オランダ連合軍とプロイセン軍に大敗した古戦場として有名。

ワーテルローの戦い

ナポレオンは勝利を確信していたが、前日の豪雨により地面がぬかるんでおり、砲車を引くことができなかった。地面が乾くまでの時間的ロスから、敵援軍の到着やプロイセン軍の参戦をゆるしてしまい、窮地に追い込まれたことが最大の敗因と解釈されている。

旦那、三フラン下さい、ワーテルローのことを話してあげましょう!

ビクトル・ユーゴー(1802-1885)の『レ・ミゼラブル』(1862)には、ワーテルローの戦いの詳細な描写がある。

一八一五年六月十八日、彼は砲数の優勢を保っていただけになおさら砲兵にまつ所が多かった。ウェリントンが百五十九門の火砲をしか有しなかったのに対して、ナポレオンは二百四十門を有していた。
仮りに土地がかわいていたとしてみよ。砲兵は動くことを得て、戦いは朝の六時に初まっていたであろう。そして午後二時には彼の勝利に帰して終わりを告げ、プロシア軍をして戦勢を変転せしむるまでには三時間を余していたであろう。

ビクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』第二部 コゼット青空文庫)より引用 

ユーゴーも前日の豪雨さえ降らなかったら、フランス軍が大勝していただろうと分析しています。

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比喩としての「ワーテルロー」~meet one's Waterloo

日本人から見ると、「ああ、ナポレオンが負けたアレね」くらいの感覚だと思いますが、英語では比喩表現になっているんですね。"meet one's Waterloo"で「大敗する」の意味らしいです。

 

  

 

ワーテルロー(Waterloo)/大惨敗/大損失/大失態/失墜/全滅/惨憺たる結果/大コケ/終焉

 

稀代の英雄と称された人物が大敗し、その後凋落の一途をたどっていく……みたいな含意があるのかどうかまでは分かりませんが、中国語でも比喩表現になっています。

ナポレオンがあれほど戦争に強かったのは『孫子』を愛読していたからという真偽不明の話もありますし、習近平さんは「民法典」を完成させたばかりですから、中国とは縁があるのかもしれません。

ワーテルローは英語読みすると「ウォータールー」。実は"Waterloo"は、わりとありふれた地名で、何十か所もあるみたいですね。なんと香港にも"Waterloo通り"があります。 

 

 

 

滑铁卢 [Huátiělú] 

中国語圏共通です。ただし香港の地名、Waterloo Roadのほうは"窩打老道"

おそらく"meet one's Waterloo"の中国語訳で、"遭遇滑铁卢"とか"成为〇〇的滑铁卢"の形で、特に報道や評論の見出しに多用されています。

もうね、大きなことから小さなことまで何でもかんでも"滑铁卢"なんですよ。

中国語におけるワーテルローの使用例

言いがかりレベルのワーテルロー

ちょっとした些細なワーテルロー

スポーツ界のワーテルロー

 スポーツ報道には大げさな見出しが多いですからね。

ビジネス、金融界のワーテルロー

 ビジネス、金融分野では、大幅安、大暴落、不振みたいなニュアンスでワーテルローが使われているようです。

他国のことでもワーテルロー

 対日本

意外と少なかったです。探せばあるとは思いますが、最近のニュースや評論を見る限り、中共政府は日本以外への口撃で忙しそうです。

アメリ

 米国に対するワーテルロー認定はものすごい量です。他にもたーくさんありますが、面倒になってきたので、このへんにしておきます。

ここからは大陸オンリーでした。香港、台湾は見つからなかったので。

 対イギリスなど

大陸はなぜかイギリスに甘い、と以前も書きましたが、ワーテルローでもそうでした。最近の報道しか見ていませんが、ほとんど見つかりません。

しかしBBCツッコミはすごいです。YouTubeで「BBC 中国大使」で検索すると簡単に見つかりますので、ぜひ!BBC公式チャンネル、日本語字幕つきですよ~。

对インド

テンセントはよっぽどインドが嫌いみたいですね。でもこういうことで他国を嘲笑するのは品がないね。こんな品のない会社が世界の企業時価総額でベスト10入りしてるんだからイヤになる。

対オーストラリア

このところ険悪なオーストラリアに対しても非常にキツいです。ずっと仲良しだったのにね。

他人の不幸をあざ笑う、しかもその不幸の種をまいたのは自分という胸糞悪い論調ですね。可愛さ余って何とやらって感じか?

いっぽう

このように具体的に困っている人たちもいるんですね。

ワーテルローの使用法

あまり深い比喩ではない

わりと単純に失敗、負け、損失の意味で使われていることが分かりました。本来は、「圧倒的有利だった人が、思いがけず負ける、そして後に失脚する」ことの比喩なんでしょうが、そのような用法は少ないです。

基本的に名詞、ときどき動詞として使われる

"滑铁卢"は地名なので、名詞に決まっています。だから"遭遇滑铁卢""成为滑铁卢"のように使われています。

ところが"滑铁卢"の"滑"が動詞を想起させるのか、いきなり

  • 《電馭叛客2077》滑鐵盧
  • 《哆啦A夢 2》票房滑鐵盧
  • 股價滑鐵盧

のように動詞として使っちゃってる場合もありました。特に台湾メディア。

ちなみに"卢"は地名、人名、黒色、猟犬という意味に使う漢字です。「鉄の"卢"を滑る」って、中国語ネーティブの頭の中にはどんなイメージが浮かんでいるんだろう??

 

それにしても多用されまくりのワーテルロー。なんでそんなに"滑铁卢"が好きなのか?勝手に考察してみました。

中国人がワーテルローにこだわる理由

ナポレオン=孫子の弟子と思っているから

諸説ありまくりですが、一説によればナポレオンがセントヘレナ島に幽閉された後に『孫子』を初めて読み、「もっと早く読んでいたら、ワーテルローで敗れることはなかったろう」と涙したとされています。

参考:揭秘:历史上拿破仑看了《孙子兵法》为何流泪?(スクープ:ナポレオンが『孫子』を読んで涙した理由)

他に、ナポレオンが勝ち続けることができたのは『孫子』を愛読していたからという説もあります。

習近平さん(赤い皇帝)がナポレオンさん(元自称皇帝)を意識しているから

お互い皇帝なだけに!

大陸では「ナポレオン法典」と「民法典」を並列して称賛する論評がけっこうありました。

ここ200年ばかりデカい顔をしてきた西側欧米諸国を勝ちまくっていた頃のナポレオンに重ねているから

「今までは一方的にデカい顔されて見下されてきたけど、でもいずれ大陸がアメリカを抜くよ~、アメリカ以外はすでに大陸が圧勝してるよ~、今があんた達のワーテルローだよ~」と皮肉っているのかもしれません。

けど反共親米の台湾メディアもワーテルローの比喩を使っていますので、この説は正しくなさそうです。

臨戦態勢の中共人民解放軍は日頃からナポレオンの戦術を研究しているから

大陸の大学では週に何回か軍事教練を受けているので、そこでワーテルローについて学んでいる可能性があります。当然、人民解放軍古今東西の戦略戦術を研究しているので、ワーテルローなんかとっても好きそうです。

香港、台湾もワーテルローを比喩として使っていますが、まあ日本みたいな平和ボケ国家ではないので、やはり臨戦態勢だと思っていいかも。

とは言え、英語の"meet one's Waterloo"でニュース検索をしてみると、大陸メディアの英語版が引っかかりがちなので、やはり大陸はワーテルロー好きだと思わざるを得ません。台湾、香港も使っていますけど、頻度は圧倒的に少ないですからね。

 

ABBAのヒット曲に「恋のウォータールー」という能天気な歌がありましたね。あれもワーテルローの戦いの比喩だそうですよ。

 

 

コトバは生き物です。上記はあくまでも現時点で主流の言い方です。