毎日一語、中国語~炎上(ネット用語)
まだ辞書に載っていない中国語の新語をひたすら書き連ねていきます
炎上する(under fire/be flamed)
えんじょうする
何らかの発言や行動をした個人や企業のツイッター、ブログなどに大量の批判コメントが殺到して火だるま状態になること。
「炎上」って2ちゃんねる用語だったと思うんですが、ここ数年で一般化しましたよね。スマホが普及してSNSをやる人が増えたせいですかね。
被骂上热搜/引发网友争议/让网友气炸/被炎上
中国語には日本語の「炎上」みたいに短くズバッと言える言葉が見当たらない。でも炎上は中国語圏でも日々起こっているわけで、そんな時使われている言葉を探してみました。
「炎上」の中国語は?
"被骂上热搜"は"被骂"(ののしられる)+"上热搜"(検索ワードのトレンドに掲載される)、つまり「トレンド入りするほど批判が殺到する」の意味。"被网友骂上了〇〇热搜的榜首"(ネット民に批判されて〇〇の検索ワードでトレンド入りした)のように具体的に言ってもOK。
"引发网友争议"は、批判的な議論が行われること。"引发"は「引き起こす」「火が点く」の意味なので、「炎上」に通じるね。"引发"を"引起"にしてもいいし、"争议"を"批判"、"吐槽"、"不满"、"热议"、"攻击"などにしてもOKです。
"气炸"は「激怒する」なので、"让网友气炸"は「ネット民の怒りを買う」。
大陸の「炎上」例~メイク落としシートのネット広告が女性蔑視!
このところ、わが国でもフェミ勢のボルテージが急上昇していますが、なんと大陸でもキテました。
女性蔑視と批判されて炎上しているのは、深圳全棉时代科技(Purcotton。以下、「全棉時代」)という企業。女性や赤ちゃん向けの衛生用品や衣料品を製造、販売しています。ユニチャームとか花王みたいな感じでしょうか。オシャレな直営店も展開しています。
2021年1月、この全棉時代が制作したメイク落としシートのCMが、ネット民の反感を買いました。
どんな広告かと言うと
夜道を歩く可愛い女性を、怪しい男が追って来ます。女性は足を速めますが、男はあきらめません。困り果てた女性が取り出したのは全棉時代のメイク落としシート。女性の肩に手を掛けた男。振り向いた女性のすっぴんを見てビックリ。「おえーっ」と嘔吐のような音とともに逃げ出します。ブサイクなすっぴん(別の男性が演じている)に戻った女性はニッコリ笑って一言。
"京都玉露卸妆湿巾,一'布'到位"
京都玉露メイク落としシート、これ1枚で効果ばっちり(^-^)v
どんなふうに炎上したのか
全棉時代のWeiboは、「女性をモノみたいに扱っている」、「女性に対する侮辱だ」的な批判コメントで溢れました。全棉時代はすぐさまCMを削除して謝罪しましたが、今度は「謝罪の文言が軽すぎる」との批判が殺到し炎上。
そこに大陸のフェミ組織、中華全国婦女連合会も参戦。「ストーカーは深刻で卑劣な犯罪。それを茶化すような広告は許されない」と痛烈批判。批判の書き込みは全棉時代の公式Weiboにとどまらず、各ネット通販の「京都玉露メイク落としシート」レビュー覧にも飛び火しました。
全棉時代は再度謝罪しましたが、今度はTVメディアが参戦。この炎上の経緯を解説したり、街の声を収集したり(もちろん批判オンリー)、スタジオゲストを招いて「これは許されませんねぇ」と言わせたりする事態にまで発展しました。
大陸の報道番組も、けっこうバラエティ番組化しているんだね。
参考:广告涉嫌羞辱女性,全棉时代被骂上热搜!“歉意表白”再气炸网友(新時報2021年1月11日付け)
(CMで女性を侮辱か、全棉時代が炎上!「お詫び」するも再炎上)
ね?"被骂上热搜"に「炎上」がぴったりハマるでしょ?
そのCM、私も見てみましたが……おもしろCMとしか感じなかったよ。こういう軽妙なCM、大陸もつくるようになったんだねぇ。イイと思います。それよりも京都とか玉露とか言う商品名のほうが問題だ!日本のせいにされなきゃいいけど。
中国語の"炎上"はオタクさん止まり
日本語の「炎上」に由来する言い方が、"被炎上"です。
日本語の「炎上」は名詞ですが、中国語の"炎上"は主に動詞として使われています。"上"が方向補語っぽく見えるせいかな。
「炎上した」は、"炎上了"でもOKですが、客観的に語る場合、炎上した当事者サイドの目線で語る場合は"被炎上了"と受身形にしたほうがしっくり来るようです。名詞形で言いたい時は"炎上事件"のように後ろに名詞を足します。
ただし一般的な表現ではなく、メディアが使うこともありません。"炎上"を使っているのは、今のところ日本のアニメ、ゲーム、アイドルの愛好家さんだけのようです。
なぜかと言うと、現代中国語に"炎上"という単語がないから。でも、四柱推命という占いに「炎上格」という用語があるんですよね。そのせいか、台湾オタさんは"又發生大型「炎上」事件"(また大炎上した)のように「」付きで書いてますね。
あ、台湾&香港は日本と同じく「 」の記号を使いますよ、念のため。
大陸で"炎上"が使われ始めたきっかけは
仮説1
リアルタイムで観察してたわけじゃないんで、おそらくなんですが、中国語圏で"炎上"の使用が広まったのは、2016年以降だと思われます。と言ってもオタクさん限定ですが。
きっかけは、欅坂46の衣装が某制服に似ていたという事件だと想像しています。世界的に注目されたそうですね。まあアイドルオタさんにだけでしょうけど。
その際に、中国語圏の日本アイドルオタさん達は、"炎上"の意味と用法を学んだんじゃないでしょうか。なぜならGoogle Chinaでググってみると、2015年以前では「四柱推命」の解説くらいしかヒットしないからです。
仮説2
もうひとつは大陸で人気のアニメ、『銀魂』の「吉原炎上編」です。
日本でのテレビ放送は2009年。大陸は違法ダウンロードし放題の時代だったので、大陸アニオタさん達はソッコーで視聴していたはずです。一部の家庭では台湾や香港の衛星放送を通じて観ていたかもしれません。しかしこのタイミングで"炎上"が広まることはありませんでした。
2016年には大陸版ニコ動、bilibiliがテレビ東京と提携、2017年には実写版『銀魂』が大陸で上映されヒットしているので、2017年以前には、「吉原炎上編」がアニオタさん達限定で知られていたと想像しています。
大陸オタ達の"炎上"使用法
欅坂の騒動から2年後の2018年。ゲームオタさん達は、すでに"炎上"を使いこなしていました。
参考:如何评价去年的始皇帝炎上事件? - 知乎(去年の始皇帝炎上事件をどう評価する?)
この少し前から、大陸では「Fate/Grand Order」というスマホゲームがものすごく流行っていました。この頃、日本に来ている留学生達は、もうFGOのことしか考えてなくって、授業終了の挨拶してる最中にログインしてましたからね。
2018年、その大人気ゲームに秦の始皇帝が登場しました。で、その設定やキャラデザをめぐって、大陸の運営(bilibili)が炎上したり、日本の制作会社にまで大陸FGOオタ達が突したとか。まあそんな騒ぎがあったそうです。
このへん、私は全く詳しくないので、興味のある人は下のリンクをどうぞ。
というわけで繰り返しになりますが
"炎上”を使っているのは、今のところオタさんだけ。非オタさんに対しては、"被骂上热搜"などを使いましょー。
コトバは生き物です。上記はあくまでも現時点で主流の言い方です。