劇場版「鬼滅の刃」無限列車編は中国本土でいつ頃公開されるのか、または公開されないのかを考察(後編)
鬼滅ブームに沸く日台港を横目で見ながら、デマに釣られて一喜一憂する大陸の鬼滅ファン達。
可哀想><;
劇場版「鬼滅の刃」無限列車編、大陸での公開はアリやナシや?
「君の名は。」の中華圏上映スケジュールを振り返る
bilibiliの予告編が本物だとして、アニプレックス公式が「もう少々お待ちください」と言っているとしたら、中華人民共和国(以下、記事内では「大陸」)側と交渉中だということ。
ならば大陸での上映はいつ頃になるのか。軽く予想してみましょう。
2016年のアニメ映画「君の名は。」のスケジュールを参考にします。
こうやって見ると、「君の名は。」は満を持しての公開だったんですねー。
吹替え版も台湾、香港、大陸でそれぞれ違うバージョンが用意されました。
「君の名は。」の大陸での公開は
- 日本での公開から97日後
- 台湾での公開から48日後
- 香港での公開から21日後
劇場版「鬼滅の刃」無限列車編(以下「無限列車編)の場合は
- 台湾が日本の14日後
- 香港が日本の25日後、台湾の12日後です。
制作会社、配給会社ともに違うので一概には言えませんが、展開が速い!
日本での公開から台湾での中国語吹替え版公開まで、わずか20日間。
所要時間は「君の名は。」の半分以下でした。
大陸の公開日を大胆予想!
台湾~香港の展開スピードを保ったまま水面下で進行しているとしたら、大陸は12月上旬。
…と言いたいところですが、映画館の上映スケジュールや前売り券の情報はまったく聞こえてきません。
台湾、香港での配給会社、Muse Internationalの上海支社も沈黙しています。
「君の名は。」のスケジュールを当てはめて、日本の3か月後と考えるなら1月中旬。
もしも本当に水面下で進行しているとすれば、台湾の50日後、12月下旬です。
しかーし!
「無限列車編」の内容を鑑みれば「君の名は。」以上に難航するのは必至。
劇場での上映はナシ
ということも十分あり得ます。
その理由を挙げていきます。
「無限列車編」 大陸での公開が危ぶまれる理由
その1 大陸で上映される日本アニメは、現状では意外と少ない
昨年2019年、大陸では日本映画や劇場版アニメが多数公開されました。
「名探偵コナン 紺青の拳」、「ONE PIECE STAMPEDE」、「映画ドラえもん のび太の月面探査記」、「劇場版 夏目友人帳 うつせみに結ぶ」、「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE~2人の英雄~」、「ドラゴンボール超 ブロリー」、「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] I.presage flower」、「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] II.lost butterfly」などなど。さらに「千と千尋の神隠し」も昨年正式に公開されました。
しかし今年は12月に「ドラえもん のび太の新恐竜」の公開が決まっているのみ。
日本でヒットし、bilibiliでも人気だった「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の劇場版や、「鬼滅」と同じアニプレックス制作で、昨年1、2作目が上映されている「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song」なんかは今のところ公開されていませんし予定もありません。
新型コロナの影響なのか、大陸側の路線変更なのかは不明。
その2 共産党政府は国産アニメのテレビ放送を推奨、海外アニメを規制
2004年、中国政府は国産アニメの育成強化を決定。
2006年頃から本格的に海外アニメを厳しく規制し始めました。
国家広電総局は「テレビアニメ放送管理の強化要請に関する広電総局通知」の中で、各テレビ局に対し、以下のような要請をしました。
- 未成年の思想道徳を建設し、より多くの思想的深み、芸術的深みを提供し、精巧、良質で優れた国産アニメを制作すべく、国産アニメ産業の発展のために良好な環境を創造することを目的に、アニメチャンネル、未成年向けチャンネルにおいて、継続的に国産アニメの放送規模を拡大しなければならない。
- 広電総局が審査、許可していない海外アニメを放送してはならない。
- 毎日17:00-21:00に国産アニメ、国産アニメ関連番組を放送しなければならず、海外アニメを放送してはならない。
- 海外アニメや海外アニメ関連番組の放送禁止時間を、従来の17:00-20:00から17:00-21:00に変更する。
- 国産アニメの放送時間は、海外アニメの放送時間に対して7:3の割合を下回ってはならない。
(2008年2月19日付け通知より一部を和訳)
出典:中華人民共和国中央人民政府公式サイト《广电总局关于加强电视动画片播出管理的通知》(2008年2月19日)
その3 大陸独自の厳しい審査
広電総局の審査とは?
国家広電総局は中国国務院直轄の役所です。
上の項に書いたように、アニメに限らず大陸で放送される番組や映画は、この広電総局の審査をパスする必要があります。
海外作品はもちろん、大陸制作のドラマや映画も例外ではありません。特にドラマの場合は、全話撮影した後に審査を受けるので、かなり大変。
中国のTVドラマは、13話程度で終了する日本のドラマとは違い、とーっても長いものが多いです。全120話なんていうのもあるんですが、そういうのも全話撮影してから審査してるんでしょうかね?謎です。
どんなものが弾かれるのか
10年くらい前、来日していた広電総局の人の通訳をしたことがあります。その時、興味深いことを聞かせてもらいました。
「中国で上映、放送できないような内容ってどんなのですか?」とお聞きしたところ
「分かりやすく言うと《聊斎》。あれが限界」とのお答え。
《聊斎》とは『聊斎志異』という清代の小説のこと。魔物や仙人にまつわる怪異譚です。
日本でも大ヒットした香港映画「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」の元ネタも、この『聊斎志異』。面白いよ!
この話を聞いたとき、なるほど~と思いましたね。
大陸の政治体制は非科学的なものを否定しています。たとえば、どこの国でもたいてい「国造り神話」ってあるじゃないですか。ああいうのも否定です。まあ中華人民共和国の建国と、渾沌とか女媧は関係ないってことかな。中国人に、イザナミイザナギの話とかすると鼻で笑われたりします;;
要するにファンタジー要素が強いお話は、広電総局の審査で弾かれる可能性が高いということ。ただし基準は『聊斎志異』とか言われても、かなり曖昧ですよね?
そのせいか大陸の時代劇なんかも、なかなか審査をパスできないようです。仙人とか幻術を使う道士とか出てきますもんね!OKが出るまでは何度も何度も修正するそうですよ。
その4 殺せんせーがダメなら「鬼滅」だって危ない
ネットアニメの規制基準
2015年、政府は、これまで放置していたネットアニメの規制に乗り出しました。
ネットアニメとはbilibiliなど動画共有サイトで公開されている作品のこと。日本では地上波テレビや有料チャンネルで放送されていたり、DVDで販売されているような作品も、大陸ではほぼ動画共有サイト経由で視聴されています(キッズ向けを除く)。
ここでも人気なのは日本のアニメ。テレビアニメ版「鬼滅の刃」は、大陸ではbilibiliを通じて視聴されているネットアニメです。
注目すべきは、規制の基準について述べた文化部令 第51号「インターネット文化管理の暫定規定」(2011年2月17付け)の第16条です。
第十六条 互联网文化单位不得提供载有以下内容的文化产品:
(一)反对宪法确定的基本原则的;
(二)危害国家统一、主权和领土完整的;
(三)泄露国家秘密、危害国家安全或者损害国家荣誉和利益的;
(四)煽动民族仇恨、民族歧视,破坏民族团结,或者侵害民族风俗、习惯的;
(五)宣扬邪教、迷信的;
(六)散布谣言,扰乱社会秩序,破坏社会稳定的;
(七)宣扬淫秽、赌博、暴力或者教唆犯罪的;
(八)侮辱或者诽谤他人,侵害他人合法权益的;
(九)危害社会公德或者民族优秀文化传统的;
(十)有法律、行政法规和国家规定禁止的其他内容的。
第16条 インターネット文化団体は以下の内容の文化製品を提供、掲載してはならない。
- 憲法が確定する基本原則に反対するもの
- 国家統一、主権と領土の保全を害するもの
- 国家秘密を漏洩し、国家安全を損なうもの、または国家の栄誉と利益を損なうもの
- 民族憎悪、民族蔑視を扇動し、民族団結を破壊するもの、または民族の風俗、習慣を侵害するもの
- 邪教、迷信を広く宣伝するもの
- デマを飛ばし、社会秩序を乱し、社会の安定を破壊するもの
- 猥褻、賭博、暴力または犯罪教唆を広く宣伝するもの
- 他者を侮辱または誹謗し、他者の合法権益を侵害するもの
- 社会公共道徳または民族の優れた文化伝統を害するもの
- 法律、行政法規および国家規定が禁ずるその他内容を有するもの
ネットアニメ規制で「進撃の巨人」が「禁書」に!
大陸では
- テレビで放送されるアニメ=キッズ向け
- ネットで公開されるアニメ=「大きいおともだち」向け
という住み分けができています。
つまり、ネットアニメ視聴者の多数は「大きいおともだち」であり未成年ではないわけですから、前述のキッズ向けテレビアニメ番組に対するような要請、つまり「未成年の思想道徳を建設すべく、国産アニメの放送規模を拡大しなければならない」という要請に応える必要はありませんでした。
それにbilibiliなど新興企業には外資も入っていますし、なんといってもNASDAQで上場しちゃうような稼ぎ頭です。そのせいか、政府もネットアニメには目をつぶってきたわけですが…。
2015年、中華人民共和国文化部(日本の文化庁に相当)がbilibili、優酷など動画共有サイトに対し、ブラックリストを提示。日本のアニメばっかり38作品が規制対象になりネットから姿を消したことは、日本でも話題になりました。
詳細は
中華人民共和国文化和旅游部公式サイトから
《文化部公布网络动漫产品“黑名单”》
を検索してご参照ください。
詳細知りたい、中国語分からん、という人は、「中国 2015 日本アニメ 規制」でググってみてください。
ともかく、2015年、大陸の各動画共有サイトは日本アニメ38作品を削除。
理由は上述「インターネット文化管理の暫定規定」16条の7項、9項です。
7. 猥褻、賭博、暴力または犯罪教唆を広く宣伝するもの
9. 社会公共道徳または民族の優秀な文化伝統を害するもの
ここで38作品のリストは掲載しませんが
- 東京喰種
- 進撃の巨人
- 寄生獣
- クレイモア
- 暗殺教室
- PSYCHO-PASS
とかがダメなら「鬼滅」もあやしいかなと思うんですよ。
ちなみに、中国文化部は、音楽120曲のについてもブラックリストを公開しています。
ブラックリスト入りした120曲がどんな曲なのか、すごく興味が湧きますね。
さて、2018年にも追加の規制が実施され、ネットアニメ9作品が対象になりました。
またしても日本アニメオンリー。
- セイレン
- アカメが斬る!
- 風夏
- お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ
- お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!!
- アブソリュート・デュオ
- そらのおとしもの
- 精霊使いの剣舞
- 政宗くんのリベンジ
…マニアックだ。お色気関係が多いのかな?
やはり「インターネット文化管理の暫定規定」16条の7項、9項が根拠だそうです。
私が見たことあるのは「政宗くんのリベンジ」くらいですが、別に
7. 猥褻、賭博、暴力または犯罪教唆を広く宣伝するもの
9. 社会公共道徳または民族の優秀な文化伝統を害するもの
だった印象はないなあ。ラブコメだし。
ちなみに、現在は該当箇所を修正削除して、再公開されているそうです。
しかしこういうの、共産党政府の担当者は全部見てるんだね!ある意味敬服します。
現時点で最新の規制は上記2018年のものです。初回が2015年ですから、3年ごとに規制を追加するのであれば、次回は2021年になります。その時、テレビアニメ版「鬼滅の刃」が規制対象になる可能性は高いです。逆に、ならないと辻褄が合いません。
「9. 社会公共道徳または民族の優秀な文化伝統を害するもの」
に引っかかることはないと思いますが
「7. 猥褻、賭博、暴力または犯罪教唆を広く宣伝するもの」
の「暴力」は大いにありうるでしょう。
流血や身体損傷の描写もありますしね。テレビアニメ版「暗殺教室」と比べて身体損傷の場面が少ないとは思えません。
仮に
などの理由付けをして「無限列車編」を映画館で上映すると言うのなら、テレビアニメ版「暗殺教室」だって規制解除しないとおかしいです。立派なヒューマンドラマでしょ?
テレビアニメ版「鬼滅の刃」をネットで禁止するなら、劇場版公開なんてもっての外でしょう。
結論
上記4つの理由に加え、さらに劇場版であることを考慮して結論を出そうと思います。
映画館での上映は、ネットでの公開よりハードルが高いことは推して知るべしですから。
ネットアニメはアニオタさんがメイン視聴層だけど、映画館にはキッズも来てしまいますからね。ネットオンリーよりも、さらに厳しく審査されるはず。
すると、日本や台湾、香港で公開されたバージョンのまま、大陸で上映される可能性は極めて低いと思われます。
以上のことを踏まえて考察すると
「無限列車編」は大陸の映画館では上映されない
と私は予想する。
じゃあ大陸のアニオタさん達は海賊版とか違法動画を観ちゃうよ?bilibili、儲からないよ?共産党政府にとってもおいしくないんじゃない?
という反論もあるでしょう。
ならば少し譲歩して、3つのシナリオを予想。
シナリオ1. bilibili限定で公開
それなら
- 台湾制作の吹替え版を使用することも可能。映画館で台湾声優ばかりで上映というのも、共産党政府として面白くなさそう。でもネットならまあいいんではないでしょうか。
- 「暴力」の部分は、流血や斬首なんかのシーンを修正して対応。
シナリオ2. 映画館でひっそり上映
この場合
- 対象年齢を18才以上とかに厳しく指定。たまに違反者をしょっぴいて見せしめにする。
- 台湾制作の吹替えを使うのは癪なので字幕+IMAX版オンリー。
シナリオ3. 大幅な修正を重ねたうえで映画館で上映
そうなると
- 修正箇所をめぐり、ネットで大論争に!
- 公開はかなり後倒しになる。
- 反面、大陸の声優さんによる吹替え版を作る余裕が生まれる。すると台湾流の吹替えを好まない大陸のアニオタさん達から高評価を得る。
という線もアリじゃないでしょうか。儲かることは分かってるビジネスですからね。共産党政府もやりたいのはやまやまだとは思います。
以上、完全に私感ですが、真剣に考察しました。
アニプレックスさんは、おそらく広電総局、bilibiliなど関係者との交渉に奔走中だと思います。本考察とは関係なく、よい結果が出ることを陰ながら祈念しております。