毎日一語、中国語~ソメイヨシノ(桜)
まだ辞書に載っていない中国語の新語をひたすら書き連ねていきます
ソメイヨシノ/染井吉野
桜界のスーパースターとも言える人気種。江戸時代後期の植木職人が野生種のエドヒガンと固有種のオオシマザクラを交配した人工の桜とされている。
4月頃に満開の花を咲かせ、開花期は九州から始まり徐々に北上していく。現在見られるソメイヨシノは一本の木から接ぎ木や挿し木で増殖させたクローンであることが分かっており、地域ごとに一斉に満開になるのもクローンゆえとされている。
すべてのソメイヨシノは遺伝子が同一なため、受粉しても結実しない。実を付けて、その種が発芽した場合、それは別の種類の桜から受粉したものであり、純粋なソメイヨシノではなくなっているらしい。
东京樱花 /日本樱花
小学館『日中辞典』には、ソメイヨシノ=染井吉野樱 とありますが、そんなふうに呼んでいる人はまずいない、専門家だけだと思います。ほら、大陸人民は動植物の名前とか気にしてないから!なので、"东京樱花"とか"日本樱花"でOKです。
なぜそう呼ばれているかと言うと、現在中国大陸で見られる桜は、日本が寄贈したものだから。
1972年、日中国交回復の時、田中角栄首相が鄧穎超首相夫人(周恩来さんの奥様です)に1000本の桜を寄贈しました。その後も日本から大陸へ、ソメイヨシノ、オオヤマザクラ(八重桜)などがたびたび寄贈され、いろんな場所に植えられています。
もちろん中国大陸にも野生種の桜は生えているでしょうが、自然が残っている山奥でも行かないと見られないんではないかな。都会はコンクリートジャングルで、街路樹くらいしかないですもんね。
桜は日本のイメージか?
日本人にとって「桜=日本」的なイメージがですが、大陸でもそんな感覚だと思います。
日本の映画、ドラマ、アニメなどには、印象的な桜のシーンが出てきます。日本を訪れた大陸人民は、大都会で一斉に開花するソメイヨシノにビックリします。
そもそも自分達で"东京樱花"、"日本樱花"と呼んでますからね。中国科学院《中国植物志》にも"东京樱花"または"日本樱花"と書かれているそうですよ。(参考:樱花(蔷薇科樱属植物)_百度百科)
北京の玉淵潭は桜の名所と言われています。大陸のお花見はどんなもんかな~と観に行ったことがありますが、レンタル着物(やたらド派手な和服)を羽織った人民達が、大はしゃぎで写真を撮ってたんですよ。
肝心の桜はと言うと、剪定とか全然してないようで、あまりきれいじゃなかったです('A`) 人民がやたら引っ張たり折ったりするからボロボロだったし。桜ってちゃんとお世話しないとダメなんだな、とその時学びました。
まあ"00年代の話ですけどね。当時は小泉総理の時代で、日中関係はわりと厳しめでした。なのに日本の着物って。
だから間違いなく桜=日本のイメージでしたね。当時は。
それがどうも最近、ちょっと変化してるみたいです。
大陸を代表するお花見スポット「武大桜花」
「世界三大桜の名所」って聞いたことありますか?私はありません。
誰が言ったのか知りませんが、大陸ではそういうことになってるんですね。で、三大がどこかと言うと、ワシントンのポトマック川、武漢市の武漢大学、青森の弘前公園なんだとさ。
国恥の桜
武漢大学の桜は"东京樱花"、またの名を「国恥の桜」。
日中戦争の時、武漢大学を接収し宿舎にしていた日本軍が、日本から持ち込んだ桜が"武大樱花"の始まりとされています。
その後、気候のせいか手入れしてなかったせいか分かりませんが、当時の桜は枯れてしまった。そして田中角栄首相が贈った桜の一部が植えられ、以降たびたび日本から桜が寄贈された……と、日本では解説されています。
でも大陸の解釈では、日中戦争当時の桜は枯れていないんですね。今も咲いています。だから「国恥の桜」なわけです。
田中角栄首相が贈った1000本のうち50本が、周恩来首相の指示で武漢大学に植えられましたが、日本への皮肉だったのかもしれないね。
2019年のお花見シーズンにはこんなこともありました。
- 武大不许穿“和服”赏樱花?「武漢大学が和服の花見を禁止?」(人民日報 2019-03)
- 和服風の男性を警備員が取り押さえ、映像拡散で物議 中国・武漢大(CNN 2019-03)
日本の着物っぽいものを着た青年が武漢大学のキャンパス内に入ろうとして、守衛に拘束されました。この人民日報の記事も、武漢大学の桜は日中戦争の時に植えられたものと書いています。
まあね、その後国共内戦やら大躍進やら文革やら経てますから、お世話なんかしてなかったろうし、さすがに枯れてると思うんだよね。上の写真の桜も、樹齢70年以上にしては細いしね。
で、大陸メディア日本語版は、どう言ってるのかと言うと
桜の世界3大名所の一つ 武漢市東湖の桜花園(中国網 2011-15)
中国共産党系メディアの中国網です。武漢大学のことには触れずに東湖磨山にだけ触れて、「最初の桜は田中角栄首相から贈られた」と書いてますよ。お花見では磨山より武大のほうが有名っぽいけどなあ。
ソメイヨシノの起源は中国です、ってか日本の桜のルーツは中国です(`ハ´)
ついに半島の人みたいなことまで言い出しました。
武大樱花是从日本引进的,但日本樱花还是从中国引进的「武漢大学の桜は日本からの移植、でも日本の桜だって中国からの移植」(百度百科 2019-03)
- 桜は中国のヒマラヤが原産。秦の時代には花見が行われていた。日本の桜は遣唐使が持ち出したもの。
まずその頃のヒマラヤは中国じゃないし。日本の在来種がなかったことになってるし。
- 奈良時代の日本では、花と言えば桃の花だけだった。
いやそんなことないでしょ。どっちかつーと梅とかでしょ。
- 江戸時代に花見の習慣が庶民に広まり、日本の精神、日本の象徴になった。
そうでもないらしいですよ。たくさん植えられるようになったのは明治以降らしいです。だいたいソメイヨシノはクローンですからね。
ソメイヨシノが人工的な交配種だということが内緒なようです。大陸版Wiki 东京樱花_百度百科 にも、交配種とは一言も書いてありません。(「挿し木、接ぎ木で増やす」とは書いてある。)
世界の桜の故郷、武漢 武漢大学でお花見を
お江戸のど真ん中(江戸時代にはお江戸の隅っこ)の渋谷で、日本人をお花見に誘う武漢大学の広告。
近年、大陸が盛んに桜を植えてお花見スポットを増やそうとしているという話も聞こえてきます。そのうち"东京樱花"とか"日本樱花"とかの呼称は変更されるかも!
ただ、さっきの記事、面白かったのはここ。
虽然樱花是日寇在占领武汉时种植的,但是宽容的中国人认为罪在日军,而不在樱花,所以并没有将这些樱花铲除掉。要是换了韩国,这些樱花恐怕是一株也留不下来的。
桜は日本の侵略者が武漢を占領した時に植えたものだ。だが寛容な中国人は、罪は日本軍にあり桜にはないと考えた。よってこの桜が取り除かれることはなかった。これが韓国だったら、これらの桜は一株たりとも残っていないだろう。
中国語ビジネス会話とか日中通訳のテキストには、たいていお花見ネタが載っていて
- 日側「ちょうどお花見の時期です。ぜひ日本の桜を満喫なさってください」
- 中側「きれいですね。中国でも日本の桜の美しさは有名なんですよ」
- 日側「満開の桜もすぐに散ってしまう。そういう刹那的なところが日本人の美意識に合っているんです」
みたいな会話が展開されていますが、今後ちょっと注意しないといけないかな。いきなり「この桜は遣唐使が中国から持ち出したんですよね?」とか言われちゃうかも。
コトバは生き物です。上記はあくまでも現時点で主流の言い方です。