しーらかんす式

音楽と日本語と中国語のブログ

毎日一語、中国語~アナと雪の女王(映画)

まだ辞書に載っていない中国語の新語をひたすら書き連ねていきます

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アナと雪の女王(Frozen)

2013年公開。米国ディズニースタジオによるオリジナルストーリーの3Dアニメ映画。日本では2014年に公開され主題歌とともに大ヒット。2019年には続編の『アナと雪の女王2』が公開された。

ENJOY CINEMAさんの歴代映画興行収入ランキングによれば、『アナと雪の女王』は歴代4位。『アナと雪の女王2』は歴代18位の大ヒットだそうですよ。

参考:【2021年最新版】歴代興行収入ランキングベスト100! - ENJOY CINEMA|映画の感想ネタバレ口コミ評判あらすじ結末

雪の女王」と聞いてアンデルセンの『雪の女王』を連想しましたよね。そっか今度のディズニーもアンデルセン原作か。ん?でもアナって誰よ?オリキャラぶっこんだか?と思いましたよね。でもアンデルセン関係ないんですね。だって原作のタイトルは"Frozen"だし。

さて、中国語のタイトルはどんな感じでしょーか。

 

 

 

大陸、台湾
冰雪奇缘 [Bīngxuě Qíyuán]

香港
魔雪奇緣 [Móxuě Qíyuán] [Mo1 syut3 Kei4 yun4]

「氷雪奇縁」、直訳するなら「氷と雪の不思議な縁」です。

こおりとゆきの ふしぎなえにし

こおりとゆきの ふしぎなえん

読んでみると、どっちも七七、七五になっていて、なかなか心地いい。

香港のみタイトルがちと違います。「まほうのゆきの ふしぎなえにし」ですね。

 

「アナ雪」って中国語圏ではヒットしたの?

日本みたいな大ヒットにはなりませんでした。てか日本が異常だったとも言える。

大陸

まず1作目の《冰雪奇緣》。2014年2月の旧正月シーズンに公開されましたがまったくふるわず、2014年の映画興行収入年間ランキングではなんと34位(3億元)。この年の1位は『トランスフォーマー/ロストエイジ』(19.8億元)でした。
続編の《冰雪奇緣2》では若干盛り返し、2019年の年間ランキングでは22位(8.5億元)でした。

香港

公開1週目の興行収入では2位の大ヒットでした。1位はアンディ・ラウ主演の《風暴》

台湾

公開1週目の興行収入は3位と健闘。この時の1位はキアヌ・リーヴス主演の『47 RONIN』、2位が『LIFE!』といずれも洋画でした。しかしじわじわとロングヒットを続けました。

参考:总票房 - 电影票房排行榜 - 电影票房数据库

 

もちろん大ヒットには違いありませんが、日本に比べれば全く盛り上がってない感じでしょ?ディズニーサイドは事前のプロモーションが足りなかったと分析したようです。

 

《〇〇奇縁》はありがちな中国語タイトル

永遠の中国語学習者であるしーらかんすは、中国語のタイトル=《冰雪奇緣》と知った時、「あ、またか」と思いましたよ。

《〇〇奇緣》というのは中国語圏の映画やドラマでしょっちゅう見かけるタイトルなんです。特に外国作品のローカライズに多いような気がしてたんですが……

最近の目立つところを拾っただけでもこんな感じ。本当はもっともっとあります。映画以外も入れると大量に。

個人的には、《〇〇奇緣》はディズニー以外だと、いわゆるロマンチックコメディーのイメージ。でもこうやって見てみると意外に多彩だね。

わが国でも80~90年代にはありがちでしたからねえ。『愛と〇〇の~』とか『栄光の〇〇』とか『炎の〇〇』とか『呪われた〇〇』とか『華麗なる〇〇』とか『おかしなおかしな〇〇』とか(以下略)

《〇〇奇縁》の元祖は《仙履奇縁》か

私が最初に知った《〇〇奇緣》は、《仙履奇緣》でした。

以前、ある香港ドラマの字幕翻訳をしていた時に、「これってまるで"仙履奇緣"?」みたいなセリフがあったのですよ。何じゃこの四字成語?それか、古典文学とか武侠ファンタジーとかのタイトルかな?と思い辞書を引きましたが、当時使っていた辞書には載っていませんでした。

で、ADSL接続のインターネットでだらだらと検索してみたところ、"灰姑娘"という単語を発見!そう、「シンデレラ」だったんです。

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「シンデレラ」の原型は伝承文学。口づてに伝わったお話を物語にまとめたのが、シャルル・ペローの『サンドリヨン』やグリム兄弟の『灰かぶり姫』です。フランス語の「サンドリヨン」を英語読みしたのが「シンデレラ」だそうです。

「シンデレラ」が日本で紹介され始めたのは明治時代。Wikipediaによると、 1887年に菅了法翻訳による『西洋古事神仙叢話』にある『シンデレラの奇縁という翻訳書があるそうです。

ん?「奇縁」とな?

当時の原文がないし見ても分からなそうですが、ともかく1887年の翻訳書に「奇縁」が使われてますね。明治時代の日本には清国から来た留学生がたくさんいましたから、ひょーっとするとこの『シンデレラの奇縁』を知っていたかもしれませんね。それか原文に「奇縁」に相当する文言が使われていて、同じ原文から訳したか。

参考:西洋古事神仙叢話 - 国立国会図書館デジタルコレクション

 

で、香港ドラマの「これってまるで"仙履奇緣"?」というセリフですが、「まさかシンデレラ・ストーリーってヤツ?」みたいな字幕に落ち着きました。

"仙履奇緣"は、直訳するなら「魔法の靴の不思議な縁」といったところ。「シンデレラ」のお話をわずか4文字で要約している!

 

 《仙履奇縁》は「シンデレラ」の映像作品に繰り返し使われた

おそらくですが、中国語圏に最初に紹介された「シンデレラ」の映像作品は1950年のディズニーアニメだと思われます。もちろんリアルタイムじゃなくて、後になって香港、台湾、大陸とビデオやVCDまたはテレビ放送で伝わっていったんでしょう。

制作年順に見てみると

  • 1950年、米 『シンデレラ姫』 ディズニーのアニメ
    《仙履奇緣》
  • 1976年、英  『シンデレラ』
    《仙履奇緣》
  • 1979年、ソ連  『ゾールシカ』 アニメ
    《灰姑娘》
  • 2002年、米  『シンデレラⅡ』 ディズニーのアニメ
    《仙履奇緣2:美夢成真》
  • 2007年、米  『シンデレラⅢ 戻された時計の針』 ディズニーのアニメ
    《仙履奇緣3:時間魔法》
  • 2015年、米  『シンデレラ』 ディズニーの実写版
    《仙履奇緣》

なぜかソ連制作アニメのみ《灰姑娘》

人によって、初めて出会った作品は違うと思いますがど、とりあえず中国語圏の人たちにとっては《仙履奇緣》=「シンデレラの話」、それもディズニー系の「シンデレラ」、ラブストーリー重視のロマンチック系「シンデレラ」が《仙履奇緣》なようです。

参考:シンデレラ - Wikipedia

しかし、これだけ仙履仙履言われると、シンデレラの話=魔法の靴の話みたいな刷り込みになりゃしませんか?日本だと、ガラスの靴以外にもカボチャの馬車だの真夜中の12時だの時間限定の魔法だのがキーワード化してますけど。

 

以上のことから、ディズニーの自信作「アナ雪」があまり大陸で受けなかったのは、ヒジョーに使い古された感のあるタイトル、《〇〇奇緣》のせいじゃないかな?

まった《〇〇奇緣》かよ~、でもシンデレラさんの話じゃないの?いわゆるロマコメですか?にしちゃ恋愛要素うっすいなー、みたいな。ディズニー好きキッズはそこまで考えないだろうけど、映画館に連れて行くのは親世代ですからね。

 

ついでに「アナ雪」主題歌"Let it Go"の中国語タイトルをご紹介

当時、わが国では至るところで聞こえていた「れりごー」。中国語圏ではどうなっていたんでしょう。

日本と同様に、大陸、台湾、香港、それぞれの歌手が中国語で歌ったバージョンが映画の中で使用されました。

大陸

  • 劇中歌:"随它吧"(歌った人:胡维纳
  • エンディング: "随它吧"(歌った人:姚贝娜

"随它吧"は「それに任せよう」、「それに従おう」みたいな意味。

香港

  • 劇中歌:"冰心鎖"(歌った人:白珍寶
  • エンディング:"Let it Go"オリジナルVer.

"冰心鎖"という言葉は歌詞に出てこない。ただし「ありのままの姿見せるのよ」が「見えない枷を捨てよう」となっているので、その「見えない枷」=「凍った心の枷」、「凍った心の錠前」のことらしい。

台湾

  • 劇中歌:"放開手"(歌った人:林芯儀
  • エンディング:"Let it Go"オリジナルVer.

"放開手"は「手を広げよう」ですが、「思う通りにしよう」の意味もある。

 

香港版のタイトルは謎だけど、歌詞を読んでみれば内容はだいたい一致。原題の"Let it Go"に忠実なのは大陸版。同じ意味を前向きに訳したのが台湾版かな。

 

 

コトバは生き物です。上記はあくまでも現時点で主流の言い方です。