しーらかんす式

音楽と日本語と中国語のブログ

玉石混交 中国ライブコマースには危険がいっぱい

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ライブコマースとは?

インターネットのライブストリーミング配信を通じて、消費者の質問やリクエストにリアルタイムで答えたり実演したりしつつ商品を販売すること。

だったらショップチャンネルQVCみたいなテレビショッピングと大差ないじゃん?と思うかもしれませんが、中国本土(以下「大陸」とします)のネットで行われているライブコマースには、日本の「お買い物エンターテインメント」とは決定的に違う特徴があるんですね~。

「ライブコマース」は中国語で直播带货 [zhíbō dàihuò]。大陸メディアが発表した2020年流行語にランクインした言葉です。このうち直播は「生中継」、つまりライブ配信、ストリーミングという意味。

そして带货ですが、ココ、重要!なんです。

"带货" とは?

有名人が実際に商品を使用して行う販売促進のこと。

ブランドアンバザダーセレブ御用達にも通じる言葉です。有名人が販売促進を行う場面は広告とは限りません。俳優ならドラマや映画の中で、有名人ならテレビや雑誌やSNSなどで商品を使っている様子を大衆に見せることで

  1. 有名人や俳優に好意的な人々が「あ!あれいいなぁ、同じの欲しいなぁ」と思う
  2. 商品の知名度やブランド価値が上がる
  3. 売上UP\(^o^)/

という流れを期待するワケです。つまり訴求先はその有名人のファンということ。

 

ライブコマースにおけるインフルエンサーの役割

2020年の流行語、直播带货带货しているのは、主に网红 [wǎnghóng]と呼ばれる人たち。网红は「ネットセレブ」と訳すのが適当だと思いますが、ライブコマース界で言うならインフルエンサーとかKOL(Key Opinion Leader)です。今回は以下「インフルエンサー」としますね。

インフルエンサーにはファンというかフォロワーというか信者みたいな人達がたくさん付いています。だからこそインフルエンサーなわけですが。

ライブコマースでは、多くのフォロワーを抱えるインフルエンサー主播 [zhǔbō]を務めます。主播とは本来「MC」「進行役」のこと。でもライブコマースにおける主播は、MCでありプロデューサーでありバイヤーでありデモンストレーターでありセラーでもある。さらに視聴者の質問や要望にリアルタイムで答えるお客様係りも兼ねています。まさに八面六臂の奮闘ぶり!(適当な訳語が見つからないので以下「MC」としておきます。)

 

ライブコマースはインフルエンサーの応援合戦

ECサイトという戦場で果敢に戦うインフルエンサーの姿は、さらにフォロワーを増やします。フォロワーには「もっと応援しなきゃ」という心理が働きます。周知の通りECサイト側は露骨にリアルタイム売上を煽るので、「別のMCに勝たせるわけにはいかない」「もっともっと買わなきゃ」という方向にファン心理が働くのも当然なのです。

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2020年の双十一で衆目を集めたのはタオバオが誇る2大MCの直接対決でした。

 

大陸ライブコマースの2大インフルエンサーとは

1回のライブで380本の口紅を塗ってみせた男、
No.1口紅アニキ(口红一哥 )こと李佳琦 さん

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ヒップホップユニットのボーカルにしてライブコマースの女王、
viyaこと薇娅 さん

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双十一の予約販売開始後に李佳琦 [Lǐ Jiāqí]さんのライブに訪れた視聴者はのべ1億6200万人、薇娅 [Wēiyà]さんは1億5300万人。8時間のうちに、この2大MCだけで50億元(約800億円)の売上を叩き出したと報じられました。

商品の内容ではなくMCの対決が注目を集めること自体、通販というより応援合戦の様相を呈している証拠!

 

「何を買うか」より「誰から買うか」

視聴者動員数で女王に勝利した李佳琦さん、2018年の双十一ではタオバオの大ボスであるジャック・マーさんと「どっちがより多くの口紅を売るか」対決を繰り広げました(「ガキの使い」みたいだ)。

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結果は李佳琦さんの勝ち!

ジャック・マーさんも李佳琦さんも、口紅の製造者ではありません。どっちから買っても同じわけです。なのに李佳琦さんが勝利できたのはフォロワーによる応援の賜物でしょう(まあジャック・マーが勝ってどうするんだという気もしますが)。

消費意欲旺盛な若い世代が、同じく若いインフルエンサーを支えている。この構図が日本のテレビショッピングとの決定的違いだと思います。

 

ライブコマースは玉石混交

前にライブコマースは『水滸伝』の大道芸に似ていると書きました。

coelacanthidae-style.hatenablog.com

水滸伝』に出てくる大道芸人は人が集まる市場で実演販売をするわけですが、販売する商品がいいものばかりとは限りません。まがい物や不良品も多くあったでしょう。わが国の時代劇でもありますよね。個人的には『三匹が斬る!』で燕陣内が怪しげな発明品を売る場面が好きでしたv

これを現在に置き換えると

  • MC=大道芸人または青面獣の楊志、燕陣内
  • ライブコマース=大道芸、実演販売または楊志と牛二の対決、陣内の口上
  • 主播が売る商品=大道芸そのもの、何らかの商品または吹毛の剣、陣内の発明品
  • 視聴者=市場に来た人々、通行人、野次馬

ですね。

そしてライブコマース界でも偽物や安い粗悪品をが問題化しています。 

ツバメの巣事件

フォロワー数7000万人のインフルエンサーMC、辛有志 [Xīn Yǒuzhì]さんは2020年11月、粗悪なツバメの巣を販売したことで当局から厳重注意を受け、罰金90万元(約1,500万円)の支払いを命じられました。ツバメの巣の販売会社も200万元(約3,200万円)の罰金を徴収されました。

  ツバメの巣とは

広東料理の高級食材。たんぱく質、カルシウム、鉄、リン、ビタミンなど様々な成分を含むが、西太后が愛用していたことから、美容食品のイメージが強い。

辛有志さんが販売したのは

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こういう状態のものと思われる。

これをジュースやスムージーに混ぜて飲めば、無理なくキレイが目指せるはずでした。ところが実際には、ツバメの巣どころかたんぱく質すら含まれていない、ただの砂糖水だったことが判明しました。

 

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歌手デビューも果たしている辛有志さん、これまでにリリースしたアルバムのタイトルは

  • 我欲乘风 (我、風に乗らんと欲す)
  • 陪在我身旁 (Stay with Me)
  • 我的字典没有后悔 (わが辞書に後悔の文字なし)

って、ギャグか!

カルダン、リベンジストーム事件

锤子科技 [Chuízi Kējì]を起業した風雲児、罗永浩 [Luó Yǒnghào]さんは、突飛な行動と発言で何かと話題の人物。2020年4月にTikTokのライブコマースに参入し、わずか3時間で1億1000万元(17億4000万円)を売ったとして話題を呼びました。

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ところがこの時、定価688元(約11,000円)のピエール・カルダン製品と称して79.9元(約1,300円)で売られたセーターが、実は偽物の粗悪品で、購入者に返金と補填が行われていたことが判明。この件について罗永浩さんは、「厳しい契約を結び、きちんと確認していたが騙されてしまった。仕入れ先が品質証明を偽造した可能性がある」として謝罪しました。

続いて12月、罗永浩さんは「日本では1,800元(約2万8,500円)以上で売られている」とするRevenge X Stormのスニーカーを219元(約3,500円)で販売。安さの理由を「大量仕入れ可能なライブコマースだからできたこと」と宣伝しました。

このスニーカーにまたしても偽物疑惑が浮上。ある購入者が「鑑定アプリで調べたら偽物だった」と発言したのがきっかけです。もともと共産党から睨まれがちな罗永浩さん。ここぞとばかり各メディアのバッシングを浴びていますが、代理店との契約書や販売ライセンスを次々ネットにアップして正規品だと主張。デマを拡散したメディアを訴えると息まいているところです。

finance.sina.com.cn

  風雲児、羅永浩さんはこんな人

1972年生まれ、吉林省出身の朝鮮族。高校中退後、独学で英語をマスターし、カリスマ英語教師としてネットで話題になる。その後、無料の個人向けブログサービスBullog、自身の英語学校、錘子科技を相次いで創業。錘子の若者向けスマホは広く支持されたが、資金難によりバイトダンスに買収される。現在は借金返済中とかイヤもう返済したはずだとか取り沙汰されている。

フォロワーに言わせると「中国スタンダップコメディの第一人者」だそうな。

数々のオモシロ武勇伝

  • 授業を録音した音声がネットに流出。雑談トークが「Mr.羅 語録」として人気を呼び、2年連続で百度検索ランキングの上位に入った。
  • シーメンス冷蔵庫の扉がピタッと閉まらないとしてメーカーに執拗なクレームを入れたが、意見が折り合わず決裂。知人からピタッと閉まらない冷蔵庫を回収し公開破壊した。
  • 多額の借金を理由に裁判所から多額消費を制限され、さらなる資金難に陥った。
  • Weiboに「日本が大好きだ!」「日本が無かったらアジアは無価値」「甘ったれ民族に未来はない。中国人はアメリカ黒人の万倍甘ったれている」などの日本上げ、中国下げ投稿を繰り返し炎上した。(尚、カリスマ講師時代から同様の発言が目立っていたそうな。)
  • 日本の地下鉄駅構内の「線路に物を落とされた方は駅係員にお申し出ください」という看板の写真をWeiboに掲載し、「危ないから自分で拾いに行かないでと注意するイラストの、なんと優しく格調高いことか。支那人は学ぼうともせず悪態をつくだけの役立たず」と投稿。

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    「他国を褒めるのは構わないが、中国を支那と呼んで罵るのは気味が悪い。日本人と寝たのか?」「看板は教科書ではない。禁止事項をはっきり書かないのは乗客軽視だ」「日本を立派と持ち上げ中国を支那と見下すような人物を、ご立派な日本は評価してくれるかな?国籍を変えて移民しちまえ」「あなたは真の支那人だが、我々は中国人だ」などの批判が殺到した。
  • 炎上について「私はナショナリストではなく、インターナショナリストだ」「私は中国人であることを誇らないし卑下もしない。たまたま中国人だっただけだから」と述べ、中共メディアの総攻撃にさらされ中。

 

ライブコマースは5年後に消えている?

インフルエンサーのフォロワー数に引っ張られるように爆発的な売上を記録してきたライブコマース。新型コロナの流行が追い風になったという背景もありました。

ライブコマース、インフルエンサーともに乱立状態へ

そして「新型コロナを押さえ込んだ」とする現在も、各通販サイトがライブコマースに注力し、新たなインフルエンサーも続々と参入しています。いわば寡占状態だった市場が乱立状態に移行している最中。

インフルエンサーMCが乱立すれば粗悪品や偽ブランドの問題も増加するでしょう。問題が起こっても、そもそもメーカーや販売元ではないインフルエンサーMCは、「自分も騙されていた」として仕入先に責任転嫁するしかないかもしれません。それが重なればインフルエンサーMCの信用は失墜し、フォロワーも離れていくでしょう。                                                                            

ライブコマースは若者依存

ライブコマースの視聴者は若者が中心と言われています。だからこそ贔屓のMCの応援合戦になるわけです。視聴者も若ければ、MCも若いという状況。

2020年 インフルエンサーMCランキング

  1. 黄薇(薇娅 viya) 女性、35才

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  2. 李佳琦(Austin) 男性、28才

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  3. 辛有志(辛巴) 男性、30才、辛巴軍団リーダー

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  4. 朱宸慧(雪梨 女性、30才、起業家

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  5. 蛋蛋小盆友 女性、23才、辛巴軍団メンバー

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  6. 罗永浩 男性48才

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  7. 烈儿宝贝 女性、年齢非公開、タオバオ専属モデル

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  8. 陈洁 女性、年齢非公開

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  9. 时诗(时大漂亮) 男性、30才ユニセックスモデル、辛巴軍団メンバー

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  10. 郑健鹏 男性、35才、ダンサー

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(年齢は2020年12月31日時点)

参考サイト:2020直播带货主播排行榜_2020年主播排行榜-中国排行网

 

皆さん若い!見た目もキラキラしています。

ん?きらびやかな中にひとりオジサマがいらっしゃいますけどv でも罗永浩さんはカリスマ英語教師ですから、やはり若年層に支えられて売上げを伸ばしているんでしょう。

MCの人気とリスクは正比例する

多くのフォロワーに支えられ、芸能人、アイドルも同然の存在になっているMCは、プライベートでのスキャンダルが発覚すれば大きな痛手を受けてしまいます。もちろん、ビジネスにおいても粗悪品や偽ブランドを販売すれば、強烈な批判にさらされます。フォロワーの数が多ければ多いほど、手痛いしっぺ返しを食らうってこと。

上にあげたMCランキングの中にも、粗悪品販売をきっかけに、人気急下降中の人が何人かいます。

インフルエンサー、KOLが品質管理、商品管理、経営のプロフェッショナルとは限りません。超人気MCであれば何人ものスタッフを雇っているでしょう。それでも提携企業に言われるままに販売してしまったり、品質上問題のある商品を仕入れてしまうケースは後を絶ちません。中には売上を稼ぐため、ランキングを上げるため、品質度外視でとにかく安い物、売りやすい物を選び、かえって評価を下げてしまうMCもいます。

悪質なケースも起きています。MCと通販サイトが結託して売上や視聴者数を水増しする事件、アカウントを偽装したり、関係者を名乗って金銭を詐取する事件が続々と報道されています。

  ツバメの巣でやらかしてしまった辛有志さん。アカウント停止を食らっていたところに追い打ちをかけるような事件が起きました。辛有志さんのスタッフを名乗るアカウントに騙されたフォロワー80余人が、合計600万元(約9,500万円)の詐欺被害に遭ったとして、心酔する辛有志さんのオフィスに押しかけたそうな。

ソース;辛巴直播间网购后80余人被骗600万 看直播买货需谨慎_腾讯新闻

どうやらフィッシング詐欺みたいなのに騙されたようですよ。でも大好きなインフルエンサーのオフィスから来た通知ということで、決済情報を伝えてしまったそうです。

フォロワーさん達は、辛有志さんが事件解決に乗り出してくれることを望んでいるんだとか。

 

不祥事、悪評が積み重なり、業界全体の信用や質が下がっていく。自分で自分の首を絞めるような状態。こういう悪循環、大陸ではよく起こるんです。

当然ながら政府は規制を強化しています。

www.jiji.com

新型コロナ流行と重なったこともあり、当初、ライブコマースは幅広い世代に支持されました。しかし、上の世代はすでに離れてしまったとされています。せわしない構成の画面を見続けるのは、なかなか大変なんでしょう。いっぽう、「ライブコマースは偽物だらけだから買いたくない」という声も聞こえてきます。

 

ライブコマースの明日はどっちだ

大陸のネット通販大手は、ライブコマースの将来に危惧を抱きつつあります。アリババ創業者のジャック・マーさんによれば、「ライブコマースは5年後には消滅しているかもしれない」そうな。(ちなみにライブコマースの次は「団地向け共同購入型EC」だそうですよ。)

日本の企業や通販各社も日本版ライブコマースに活路を求めているようですが、今の大陸のような活況は日本では起こり得ないと思うんですよ。多くのフォロワーを持つ前澤さんとか渡辺さんとかがMCになって、どこかから仕入れた商品や提携企業の商品をネットライブ通販したとしても、爆発的に売れるとは思えないんですよね。

日本人が重視するのは、品質と価格のバランスでしょ。ブランド絶対重視という人もいるかな。でもバイヤーやセラーの売上成績のために散財する光景は、やっぱり想像できません。

 

毎日一語、中国語で「ライブコマース」について書いていたら思いのほか長くなってしまったので分割しましたv すでに各方面で様々分析され尽くしている事象ですが、せっかくなので掲載します。