しーらかんす式

音楽と日本語と中国語のブログ

「鬼滅の刃」を「鬼滅之刃」と訳すのは中国語としてヘンだと思ったけどそれはそれでアリかもしれないという考察

鬼滅の刃」は大正時代のお話なので、基本、カタカナ言葉は出てきません。

人物や事物、事象の名前はほとんど漢字。中華圏の人が見ればだいたい分かるんだろうと思います。大陸や台湾のBBSを見ても「鬼滅之刃」「鬼滅」と皆さんふつーに書いてますしね。

でもココで気になってしまうんですよ。永遠の中国語学習者としては!

鬼滅の刃」という字面を見て、日本人なら「鬼を滅する刃」と理解するでしょう。

でも現代中国語をかじったことのある人なら、中国語が[動詞]-[目的語]構造の言語であることをご存知のはず。

英語の”I love you”

  • 日本語だと 僕は君が好きだ
  • 中国語だと 我愛你

になる。
つまり英語と中国語は[動詞]-[目的語]構造という点で語順が同じなんですね。

なので鬼滅を中国語として読んだ場合、

鬼が滅ぼす

になっちゃいます。

「待って待って、鬼が何を滅ぼすの?なんでそれをちゃんと言わないの?」

ふつーの中国人ならそう思うでしょう。

 

何が言いたいかと言うと、要するにきちんと翻訳するなら

滅鬼之刃

となるはずなんですよ。

これなら「鬼を滅する刃」になり、中国語として成立します。

 

ならば「鬼が滅ぼすの刃」なるおかしな中国語タイトルが、どうして通用しているのか?
なぜ「滅鬼之刃」にしなかったのか?

理由を考察してみました。

理由その1 アニメ字幕版のせい

中華圏に初めて「鬼滅の刃」が紹介されたのはたぶんTVアニメ。しかも中国語字幕版だったんでしょう。

字幕制作は実に煩雑な作業です。たいてい時間もありません。現代社会では鮮度が命ですからね。勢い「やっつけ仕事」になります。

鬼滅の刃」のように固有名詞が漢字メインの作品だと、ついつい「まんま」な訳がまかり通ってしまうんじゃないでしょうか。中国での配信公式はbilibiliですが、中国側も日本側も深く考えずに「鬼滅」のままGOしちゃったんだと思われます。

理由その2 抜群の知名度を誇る「の」のせい

アニメには「鬼滅の刃」のタイトルロゴが使われています。

「の」は中華圏で最もメジャーな平仮名です。

「の」は現代中国語のに相当するのですが、特に中国南方にはわざわざ「の」を含めた商品名や店名が存在します。

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もちろん日本企業とは無関係なはず。だって日本企業はこんなネーミングしないし。

私が中国に留学していた2000年頃も鲜の美という飲料が人気でした。

店のおばちゃんに「それください」と指差したら、「それって鲜之美か?」と聞き返されたくらいです。

つまり、「の」=であることは広く認識されていて、たとえ日本語を勉強したことがなくても見れば分かるということです。

そう!この「の」のせいで「鬼滅の刃」?ふーん、「鬼滅之刃」ね、と分かった気になっちゃったんじゃないでしょうか。

理由その3 中国オタク界が許容する日本式中国語のせい

一般にアニメ好きな中国人は、漫画やライトノベルまたはゲームが好きだという人が多いです。

ACGNという言葉もあるくらいで、ここで圧倒的に人気なのが、やはり日本の作品です。

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ゲームに関しては、ほとんど中国企業が企画制作したものですが、あえて日本の人気声優にCVを依頼し、日本語音声+中国語字幕という珍妙な方式を採用していたりするんです。日本に売り込むためじゃありませんよ。そのほうが中国のファンに受けるんです。

で、こういう人たちは、なんとな~く日本語を理解していたりします。

なので「鬼滅の刃」の文字を見て、ああ、日本だし「鬼が滅ぼす」ワケじゃなくて「鬼を滅ぼす」の意味だよね、OK!それで行こう!みたいに放置されたんだと思うんですよ。

 

そんなわけで、鬼滅之刃は中国のアニオタ達にはすんなり受け入れられたものの、一般人民的には「鬼が滅ぼすの刃」?何じゃそりゃ??状態なんではないかと思ったわけです。

かくいう私も、当初は「鬼滅之刃」?ヘンなの~、と思っていたのですが、考察しているうちに、これはこれでアリかもしれないと思うに至りました。逆に日本っぽさ倍増だし!

 

他のことも考察しましたが、また日を改めて^^

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