毎日一語、中国語~巣ごもり消費
まだ辞書に載っていない中国語の新語をひたすら書き連ねていきます
巣ごもり消費/巣ごもり需要/ステイホーム需要(stay-at-home economy)
すごもりしょうひ
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛、在宅時間の増加という特異な環境下で変化した人々の支出傾向全般のこと。コロナ後に新たに出現したサービスとともに語られることもある。
コロナ蔓延状況や季節、新商品発売による変動もあるので一概には言えないが、これまでより支出が増えたモノは、衛生用品、テイクアウト、デリバリー。食品ではパスタ、即席めん、酒類、冷凍食品。その他ではパソコン、ゲーム機、ゲームソフト、自動車、自転車、加湿器、空気清浄機、オンラインフィットネス、リモートワーク関連商品など。
逆にこれまでより支出が減ったモノは、交通費、パック旅行、外食、宿泊、映画、演劇、娯楽施設の入場券、カラオケ、フィットネスクラブ、スーツ、化粧品、美容院、エステ、冠婚葬祭費用などとされる。
参考:新型コロナ: 巣ごもり消費とは 冷凍食品やゲーム売れる: 日本経済新聞、コロナ禍の家計消費の推移-増えた巣ごもり消費と激減した外出型消費の現状は? |ニッセイ基礎研究所、“巣ごもり消費”で伸びたカテゴリーは? ヤフーが調査 - BCN+R
「巣ごもり消費」、「巣ごもり需要」という言葉が使われ始めたのは2020年2月頃。株式市場関係者から始まったように思う。
「巣ごもり」関連に進路を取れ、新型コロナで“株高思惑”浮上中(株探ニュース 2020-02)
中国語圏でも当然行われた「巣ごもり」。どんな新語になっているのでしょーか。
宅经济 /闲人经济 /懒人经济 /居家消费 /疫市营商
一番目についたのが、なんと"宅经济"(オタク経済)!BBCも使ってます。
肺炎疫情 :居家防疫造就的「另類宅經濟」(「新型コロナ ステイホームが生んだ『別種のオタク経済』」BBCニュース中国語版 2020-04)
新華社は「オタク経済の本質はインターネット経済であり、核心はDXだ」とまで言ってますよ。オタク経済、すごい。
“宅经济”:还会有哪些投资新“风口”(「『オタク経済』 まだある?新たな投資チャンス」新華社 2020-07)
オタク経済
このコトバ、もともと日本語の「オタク」から来ています。と言ってもコロナによって中国語圏の人がオタク化したわけではなく
- 「電車男」の影響で日本のオタクやサブカルチャーの理解が進む。
- 台湾などでオタク="御宅族" 、"宅男宅女" と翻訳される。
- 休日に外出せず、自宅でネット通販、オンラインゲーム、DVD鑑賞などをして過ごすことを"宅经济"と呼ぶようになる。
- この生活スタイルがコロナ禍の「巣ごもり」とほぼ同じだったため、巣ごもり消費のことも"宅经济"と呼ぶようになる。
という変遷を経ています。
ここで注意すべきなのは、日本語の「オタク」≠"宅男宅女" ということ!
中国語における"宅男宅女"はネガティブな表現ではありません。中国語圏から来た留学生などはわりと堂々と、どっちかつーと誇らしげに「ワタシワ オタクデスヨ(^-^)v」とか言うので。
なので「オタク経済」というよりは、「インドア経済」くらいなニュアンスと思われます。ともかく「巣ごもり消費」="宅经济"は中国語圏で現在広く使われています。
ヒマ人経済
"闲人经济"(ヒマ人経済)、"懒人经济"(なまけ者経済)という言葉もコロナ前から使われていました。
ネット通販、スマホ決済の急速な普及によって、これまで外出して行っていた実店舗での買い物、レストランでの食事、映画館での映画鑑賞などを、すべてネットで済ませてしまうことを指します。
「送料や宅配料金、手数料を払っても、スマホで完結させることで煩わしさをなくせる」ということで、これも新たなライフスタイル、ちょっとリッチなイマドキの若者文化的な意味で使われていました。
"居家消费"、"居住经济"などの言い方もありますが、"宅经济"ほど目立っていません。日経中国語版は"居家消费"を使っていました。"疫市营商"(コロナ禍ビジネス)は香港のエコノミストさん達が使っている表現です。
参考:日本人「居家消費」拉動網購增長(「日本人『巣ごもり消費』がネット通販の伸びをけん引」日経新聞中国語版 2020-03)
「オタク経済」で大陸人民の日常はどう変わったか
ここからは中国大陸の話。
売上を伸ばしたモノ
- 食品
菓子パン、ケーキ、ポテトチップス、魚豆腐、沙琪瑪、酸辣粉など。食事替わりにもなる軽食ということらしい。 - 冷凍食品
- 家電
- フィットネス用品
- リモートワーク、オンライン授業のサービス
Ding Talk(アリババの企業向けメッセンジャー)、Tencent Meeting(テンセントのビデオ会議)、Baidu Net Disk(百度のクラウドサービス)、Ape counseling(オンライン授業) - ネットスーパー
Ding Dong Fresh(上海壹佰米)、Hema Fresh(アリババ)、多多買菜(拼多多)、MissFresh(每日優鲜)。ネットスーパー業界は急速拡大中で、Hema Freshは3万人の新規採用を予定しているとか。 - ネット通販、ダウンロード販売
アリババ、テンセント、京東 - クール宅配便
- ライブコマース
若者以外にも利用が拡大した。 - フードデリバリー
輸出が増えたモノ
- 家具
ソファ、ベッド、テーブル、机など - 家電
電気スキレット、トースター、ジューサー、空気清浄機、ノーオイルフライヤー、美容家電、LED照明 - その他
パソコン、ノートPC、タブレットPC、3Dプリンター、自転車、おもちゃ、アパレル、電子医療機器、スマホ、マスク、防護服
2020年、大陸の輸入額は1.1%減の約2兆ドルだったものの、輸出額は3.6%増で約2兆6000億ドルと過去最高を記録しました。ちなみにマスク輸出額は約1兆元(約16.8兆円)、前年比30.4%増だそうです。
急拡大した技術、新しい技術
- 工場の自動化、無人化
- IT医療
オンライン診療、薬のライブカウンセリング通販 - 小売と物流の融合
冷凍食品や冷蔵食品の宅配網 - 団地サービスのオンライン化
新たに誕生した職業
「オタク経済」関連で人力資源社会保障部(政府の労働管理部門)が新たに認定した職業
- 互联网营销师 インターネットマーケッター
- 信息安全测试员 サイバーセキュリティ検査員
- 在线学习服务师 オンライン授業サービス員
こうやって見てみるとコロナで変化した消費経済(オタク経済)をAI、VR、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、IoT、スマートシティ、DXに活用する気満々なようです。さらにここに5Gが加わる、と。
日本語の「巣ごもり消費」は内向きな語感ですが「オタク経済」だと、バリバリ発展する感じ……しないか。しないな。
でも新型コロナによるピンチ(っても自らまいた種だけど)をチャンスに活かそうとしてますよ。オタク経済、やっぱりすごい。
大陸経済紙の分析によりますと、SARS後に誕生したアリババ、京東などがコロナのオタク経済によってさらに前進し、新たな消費、生活スタイルを生み、アフターコロナの新たな起爆剤になるかも?ってことだそうです。
参考:“宅经济”催生新一代线上消费增长,是大势所趋还是昙花一现(「『オタク経済』が促す新世代ネット消費の増加は天下の趨勢か それとも時代のあだ花か」光明日報 2021-03)、应对疫情,“宅经济”更火了(「コロナ対策で『オタク経済』がヒートアップ」人民日報海外版 2020-02)、海关总署:2020年进出口规模创历史新高,外贸主体活力持续增强(「税関総署:2020年輸出入が最高額を更新 貿易の主要活力 引き続き増加」第一財経 2021-01)
コトバは生き物です。上記はあくまでも現時点で主流の言い方です。