しーらかんす式

音楽と日本語と中国語のブログ

毎日一語、中国語~テンセント(企業)

まだ辞書に載っていない中国語の新語をひたすら書き連ねていきます

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テンセント(Tencent)

1998に創業した中華人民共和国のIT企業。

BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)の一角をなす世界最大のゲーム会社である。

1998年、ITエンジニアだったポニー・マー(馬化騰)とトニー・チャン(張志東)は、米国のLucent(ルーセント・テクノロジー)のような会社を創りたいと考えた。ショートメール料金が1通あたり1角=10分だったこともあり、英語名を"Tencent"=10セントにしたとされる(諸説あり)。

SNSのWeChat、QRコード決済のWeChatペイで知られているが、売上の半分はゲーム事業。中国語圏ではオンラインゲーム、スマホゲーム、eスポーツで圧倒的シェアを誇る。

M&Aに積極的なこともあり、グループの事業はゲームのみならずポータルサイト、ソフトウェア、メッセンジャー、メール、セキュリティー、検索、ブラウザ、動画サイト、ニュースメディア、Webテレビ、クレジット、証券、保険、銀行、通販、共同購入、フリマ、物流、デリバリー、ネットスーパー、地図、ライドシェア、自動運転、実店舗、アニメ、ドラマ、映画、音楽、電子書籍、スポーツ、AI、ロボット、クラウド、OS開発、旅行、不動産、引越し、ハウスクリーニング、イベント、学校、スマートシティなど多岐にわたる。

中国共産党政府が個人の信用度を格付けする仕組み、社会信用スコアにも参画している。

日本企業では、GREEKDDIバンダイナムコ集英社ガンホーミクシィカプコン任天堂セガスクウェア・エニックスDeNAなどと業務提携をしている。

グループの持ち株会社であるテンセント・ホールディングスは香港ハンセン指数の構成銘柄。音楽事業を担うテンセント・ミュージックは、2018年にニューヨーク証券取引所に上場した。

2020年8月時点でテンセント・ホールディングスの時価総額は世界8位。
参考:Biggest companies in the world by market cap 2020 | Statista

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テンセントは好んでペンギンのキャラクターを使う。その理由を「ペンギンは極地の生き物であり、テンセントも地球の両極をつなぐ企業でありたいから」としている。

企業ビジョンは
最も尊敬されるインターネット企業。

企業理念は
テクノロジーを使ってインターネットユーザーの生活向上に寄与する。

参考:Tencent Japan | Tencent Japanの公式ウェブサイト

 

 

 

腾讯 [Téngxùn] /腾讯帝国 [Téngxùn dìguó] /tx

創業者のポニー・マーさん(現CEO)とトニー・チャンさん(現終身栄誉顧問)が憧れたルーセント・テクノロジーの中国語表記は"朗讯""讯"は通信やITをイメージする漢字です。

この"讯"を社名に使いたいと考えていたマーさんは、"〇讯"という名前を3パターン考えました。

ところが息子に代わって登記に出向いたマーさんのお父さんから連絡が来ます。3種類のうち2種類はシステムにはじかれてしまい、唯一登記できたのが"腾讯"だと言うんです。

新会社の共同創業者は5人。自分の名前"马化腾"の一字を使いたくなかったマーさんは反対しましたが、相棒のチャンさんは「"腾讯"でいい。飛翔するイメージがある」と賛成。かくして"腾讯"が誕生しました。

──みたいな伝説がすでに語られるほど、大陸では誰もが羨望する巨大企業なのです。

テンセント帝国

そんなテンセントを、人は"腾讯帝国"と呼んでいます。

生活のそこかしこに入り込んだテンセントの強大な影響力。M&Aを繰り返し、敵対したライバル企業をも次々と傘下に収めていくさまは、まさに「帝国」。日本人が言う「アメリカ様」とか「中国様」とかに近い感覚かも。

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「中国のシリコンバレー」こと深圳にそびえるテンセント本社ビル。観光名所化しているらしい。

tx

テレビ東京の略称にあらず。"tx"はテンセントの読み、Teng Xunの略です。

テンセントは、買収や訴訟で敵対する企業を徹底的に追い込むことでも知られています。そのせいか大陸ネットでは「テンセント、嫌い」、「テンセントのサービスはなるべく使いたくない」という声も少なくありません。

でも悪口を言おうものなら「河蟹」される(買収されて消されることと、修正・削除されることが似ているから)ということで、ネットでは"tx"と書かれることもあります。ってもスグ分かっちゃうけども。

テンセントは世界最大のパクリ企業  

テンセントが嫌いという人が理由として挙げるのは、パクリが多すぎるということ。テンセントの商品やサービスはほぼ100%パクリと言っても過言ではありません。

いやいや、中国自体がパクリ国家じゃん!中国製品はパクリだらけだし、国民もパクリを容認してるじゃん!と思われるかもしれません。でもテンセントのヤらしいところは、世界有数の巨大企業になってからもパクリを繰り返しているところなんだよね。

だったらテンセントのサービスを利用しなけりゃいいのに、と思いますが、他社のアイディアをパクったうえで迅速な改善を行い、オリジナル以上の快適さ、便利さを確保。そこに12億人(重複アカ含む)とも言われる膨大なWeChatユーザーを誘導する、という絶対的ビジネスモデルを確立しています。

テンセントにパクられたが最後、オリジナルがいくら頑張ってもユーザーを奪われ、サービスを縮小したり、低下させたり、はたまたサービスから撤退するしかありません。

そのうえで、まだその会社に魅力があると見れば、弱ったところを買収し、解体、再編して「テンセント〇〇」という子会社にしてしまう。

こんな弱い物いじめみたいな行為を繰り返して大きくなったのが、テンセントなのです。

逆らう者は徹底的につぶす!

他人のアイディアをパクるのがうまいテンセントですが、他社にパクられれば徹底的に叩きます。これまでテンセントが起こした著作権侵害訴訟は500件とも言われているので、単純計算すると、ほぼ毎月新たな訴訟を起こしていることに。

また、敵対する者を徹底的に排除することでも知られています。2010年、大陸IT界を二分する「3Q大戦」というのが勃発しました。

3Q大戦とは

テンセントの看板商品であるインスタントメッセンジャー「テンセントQQ」をめぐり、当時圧倒的シェアを誇ったセキュリティソフト企業、奇虎360とテンセントの間で繰り広げられた争いのこと。

経緯は次の通り。

  • 奇虎360が開発した360セキュリティガードがヒット。大陸のパソコンの75%にインストールされた。
  • テンセント360セキュリティガードによく似たテンセントQQドクターを公開。奇虎360は「エンタメ企業のセキュリティソフトは信頼できない」と難癖をつける。
  • テンセントがテンセントQQドクターをバージョンアップ。QQパソコンバトラーに改名するが、ますます360セキュリィガードに似てしまう。
  • テンセントQQがユーザーのハードディスクデータをスキャンし、テンセントに送信していることを、あるユーザーが発見。ユーザーの間でテンセントへの不信感が高まる。
  • 奇虎360が360プライバシープロテクターをリリース。テンセントQQがユーザーのハードディスクをスキャンしてデータ送信していることを検出する。
  • テンセントが奇虎360を提訴。奇虎360に対し、今後テンセントを妨害するプログラムを開発しないこと、テンセントに謝罪し損害賠償を支払うことを求める。
  • 奇虎360が反論。テンセントQQのユーザーデータスキャンを他のセキュリティソフトも検出したと発表する。
  • 奇虎360が360 QQボディガーをリリース。テンセントQQのユーザーデータスキャンを阻止し、広告をブロックする機能が人気を呼び、3日間で1000万回ダウンロードされる。
  • テンセントがテンセントQQにユーザーへのメッセージを強制ポップアップ。「奇虎360の製品をアンインストールしない限り、テンセントQQにログインできなくなる」と警告する。結果、6000万台のパソコンから奇虎360製品がアンインストールされた。
  • 奇虎360がWebQQクライアントをリリース。Web版QQに直接アクセスできるようにする。
  • テンセントがWeb版QQを閉鎖。
  • 奇虎360が360QQボディガーの配布を停止。「ユーザーを舐めきったテンセントに抗議する」として、テンセントQQを使用しないよう呼びかける。
  • テンセントが奇虎360に360プライバシープロテクターの配布中止と謝罪を求める。
  • テンセントが「奇虎360の不正競争に反対する」との声明を発表。奇虎360と因縁のあったキングソフト、傲遊、百度、可牛がテンセントに賛同し、奇虎360の製品をインストールしたパソコンで自社サービスを使えないようにすることを発表する。いっぽう、捜狐、迅雷、盛大、暴風は奇虎360を支持。奇虎360の製品と自社サービスの共存を妨げないと表明する。
  • 奇虎360がテンセントを反訴。「テンセントは通信ソフト市場を支配し、自社サービスの使用をユーザーに強制している」として損害賠償を求める。
  • 政府工業情報化部が仲裁に入る。奇虎360とテンセントがそれぞれユーザーに謝罪する。

翌年の2011年、奇虎360の不正行為とテンセントの市場独占に関するふたつの訴訟が始まり、大いに注目を集めました。

2014年、テンセントの訴えに対し、最高人民法院は奇虎360に不正競争があったとして、テンセントに500万人民元を支払うよう命じました。また、テンセントの市場支配は認められないとして、奇虎360の訴えを退け、訴訟費用79万元を支払うよう奇虎360に命じました。f:id:coelacanthidae:20210321130650j:plainBaidu.com

ふたつの裁判で負けちゃった奇虎360ですが、2016年にOperaを買収するなど元気に活動中です。上の経緯を見ると奇虎360に肩入れしそうになりますが、ウイルスをばらまいてセキュリティソフトを宣伝していると批判されたりもしているので、全うな会社でもなさそう。昨今話題のLINEにも絡んでたみたいですよー。

さて、テンセントQQは今も使われているインスタントメッセンジャーです。インスタントメッセンジャーって「むむ!このパソコンには〇〇のソフトがインストールされてるな?」とか察知できるものなんでしょうか。

少なくともテンセントQQにはそれができました。つまりハードディスクをスキャンしていたということだよね。

そんなわけで大陸ユーザーは、今でもテンセントが個人情報やテンセントQQのメッセージを収集して監視していると思っています。それでもテンセント製品を使わざると得ないという。

わが国のLINE騒動にも通じる話じゃないでしょーか。

 

 

コトバは生き物です。上記はあくまでも現時点で主流の言い方です。