毎日一語、中国語~POP MART(企業)
まだ辞書に載っていない中国語の新語をひたすら書き連ねていきます
POP MART
ぽっぷまーと
2010年に北京で創業した企業。オモチャの開発、製造から小売りまでを手掛ける。
自社ライセンスを持つMollyのトレーディングフィギュアが若い女性を中心に大ヒット。自社IP製品の他、ミッキーマウスやハローキティなど人気キャラクターのトレーディングフィギュアを、直営の実店舗、直営自販機、ネット通販で販売する。企業理念は"To light up passion and bring joy"。
2019年11月、天猫「独身の日セール」で玩具部門1位の売上を達成。2020年12月には香港取引所に上場、公募価格の倍の初値を付け、時価総額は1065億香港ドル(約1兆4200億円)に達した。
2020年7月に株式会社POP MART JAPANを設立、日本進出を果たした。
※トレーディングフィギュアとは、開けてみるまで何が入っているか分からないように紙箱に入れて売られているフィギュアのこと
coelacanthidae-style.hatenablog.com
POP MART /泡泡玛特/北京泡泡玛特文化创意有限公司/泡玛
わが国ではさほど話題になっていませんが、大陸で一大ブームを創り出した画期的企業です。何が画期的かと言うと、大陸らしからぬオシャレでポップな見た目とこだわりの販売戦略だと思うんですね。
POP MARTのオシャレでポップなところ
名前が英語
そこか~い!と思われるかもしれませんが、大陸ではまだまだ珍しいと思うんですよ。"泡泡玛特"という漢字名も用意されていますが、企業ロゴとかお店の看板も英語、企業理念も英語、主力キャラもMollyとかPuckyとか英語ですから。もうね、英語よく分かんない人民は相手にしてないってことですよ。それか覚えろよ、ってことか。
POP MARTのフィギュアは対象年齢:15歳以上、購入者の75%以上が10代~30代の女性だそうです。
なんか垢抜けてる
創業者であり会長の王宁さん(以下、「王寧さん」)は1987年生まれ。鄭州大学で広告学を学んだ後、北京大学で経営学の修士課程を修了したインテリさんです。
2010年に北京の中関村にオシャレ雑貨屋さんを開店したのがPOP MARTの始まりですが、この時、参考にしたのが香港版LOFT(東急ハンズでも可)、LOG-ONだそうな。「こういうシャレた雑貨屋さんが大陸にあるといいな」と考えたそうです。
また、王寧会長は「日本式のオシャレ雑貨屋をつくりたかった」とか「店の設計はZARA Homeを参考にした」とも語っています。要するに「いいとこ取り」ですが、それが大陸らしからぬ垢抜けた雰囲気につながったと思われます。
香港取引所の上場セレモニーも垢抜けている。主要キャラに囲まれているのが王寧会長です。日本では鐘を鳴らすけど、香港は銅鑼なんですね。
海外クリエイターの才能を活用
自社製品開発に着手したPOP MARTが最初に目を付けたのはMolly。香港のアートディレクター兼イラストレーターのケニー・ウォンさんが生んだキャラクターです。さらに香港の女性クリエイター、Puckyさん他、ベルギー、韓国の作家さんがデザインしたキャラクターを製造販売しています。日本人クリエイターの大久保博人さんもコラボしています。
また、ディズニー、セサミストリート、サンリオなどとライセンス契約を結び、世界的に有名なキャラクターを製品化しています。
大陸デザインにこだわらずに幅広く才能を活用しているところが、やはり大陸らしからぬオシャレさにつながったんだと思いますね。
こだわりの販売戦略
IPビジネスにこだわる
2010年に創業したPOP MARTですが、最初の5年間は失敗の連続だったそうです。王寧会長いわく「大陸では、ちょっとしたアイディアを思いついて形にすると、3日後には真似される」そうですよ。分かる~。
で、これからはIP(知的財産権)だ!という結論に達した王寧会長は、上述のケニー・ウォンさんを口説き落としました。詳細は不明ですが、ケニー・ウォンさんのMollyは、POP MARTの自社IPとされています。MollyはPOP MART以外とコラボすることもあるんですが、そういう場合もPOP MARTにロイヤリティが入るってことですかね?
2016年、Mollyを自社IP化したPOP MARTは、これまでのオシャレ雑貨店からオリジナルフィギュア専門店に転換。今では12の自社IP、22の独占IP、50の非独占IPを武器に、各キャラクターのフィギュアを開発。店舗数を増やし、売上を伸ばしていきました。
なんか人気キャラがいるからとりあえずパクっとけ!みたいなことは決してせず、高品質の正規品にこだわってるワケですね。
実店舗にこだわる
POP MARTの快進撃が始まった2016年と言えば、大陸がネット通販の全盛期を迎えた時期です。
そんなご時世にPOP MARTがこだわったのが実店舗での販売。2020年時点で、大陸に150の直営店を展開しています。
POP MART直営店。キラキラし過ぎてて敷居が高い~。でも10代20代の女子なら、キャッキャッ言いながらたむろしそうですよね。くれぐれも食べ歩きしながら入店しないでほしいよね。
陳列方法は中野ブロードウェイとかでガンプラをディスプレーしているやり方と一致。
欧米、東南アジア、オーストラリアなど22の国と地域にも出店しているそうです。(POP MART公式サイト情報、2020年7月時点)
また、オシャレフィギュアのリアルイベントを主催するなど、オフラインのリアルな交流を重視しています。
バンダイ方式にこだわる
王寧会長は、「バンダイみたいな企業をつくりたかった」とも語っています。つうことで、ここから先はバンダイ方式というか日本の販売方法を上手い具合にパクっています。
バンダイの主力事業、ガシャポン→→ロボショップ
POP MARTが実店舗と並行して力を入れているのが自動販売機。
こんな感じの自販機を、大陸各都市に1000台強設置しているそうです。何も自販機で売るほどのことは…とも思いますが、バンダイを目指す王寧会長ですから、日本のガチャ(バンダイ的にはガシャポン)にヒントを得たのかもしれません。
日本と違って空きスペースありそうですもんね。
システム的には日本のビジネスホテルとかにある自販機と同じ。ただしカラフルな外観や、不二家の店頭にたたずむペコちゃんのように主力キャラを立たせているあたり、これまた大陸らしからぬポップな雰囲気です。女子やお子様が吸い寄せられそう。
このような自販機を、大陸では"机器人商店" (Robo Shop=「ロボショップ」)と命名し、AIを駆使した新時代の実店舗と宣伝している。
参考:布局超1000台 累计销售破3亿 泡泡玛特机器人商店的新零售之路_财经_中国网
「ロボ」と言っているが、ペッパー君のごとくキャラの人形がしゃべったりはしない。細々と接客してくれるワケでもない。
セールスポイントは、商品が壊れないように静かに出てくる、QRコード決済ができる、みたいに言われているので、自販機王国の住人から見ると、特に目新しいものでもない。でも大陸では珍しいだろうし、新型コロナも後押しになったんでしょうね。
この種の試みはわが国で何度となく繰り返されてきたが、いずれも定着しなかった。ついでに言うとペッパー君も見かけなくなった。さて、POP MARTのロボショップはどうなるかな?
フィギュアを買うついでにMollyとたわむれる男性……ではなくて、自販機のメンテナンススタッフさんです。Mollyをアルコール消毒しているところ。
機械の故障もあるだろうし、メンテも大変ですよね。
バンダイの主力事業、トレーディングフィギュア→→コレクタブルフィギュア
トレーディングフィギュアとは開けるまで中身が分からない、小さな紙製の箱に入ったまま売られているフィギュアのこと。店頭では、小さな紙製の箱が大き目の箱に6個8個12個16個などの単位で入ったまま陳列されています。この箱にお菓子が一緒に入っているものは「食玩」とも呼ばれています。
POP MARTのフィギュアは、すべて盲盒 と呼ばれる紙製の小箱に入れられ、その小箱が12個入った大箱で陳列されています。つまり、日本のトレーディングフィギュアと完全に一致。これをPOP MARTでは「コレクタブルフィギュア」と呼んでいます。
王寧会長が、この販売戦略のヒントとして挙げたのが、ソニーエンジェルというフィギュア。オシャレ雑貨屋さん時代のPOP MARTで一番売れた商品だそうです。
見たことある気がするなぁ程度の認識しかありませんでした。ファンの方ごめんなさい( TДT)
株式会社ドリームスさんが開発した商品だそうです。
う~む、やっぱり見たことある気がするけど、それはキューピーさんだったのかもしれない。POP MARTのコレクタブルフィギュアと同じく12個で1シリーズ、「何が出るかは、めぐりあい」だそうです。
このソニーエンジェル、大陸では引き続き大人気みたいですね。というか、台湾から火が点いたのかな?公式フェイスブックは台湾の直営店が中国語で発信しています。
日本のヤフオクをチェックしてみたところ、けっこなお値段で落札されていますね。大陸転売ヤーの入札かもしれませんけどね。
バンダイのフィギュアがガンオタさんやキッズ向けであるのに対し、ソニーエンジェルからはオタク臭しませんね。そのへんはPOP MARTのおしゃれフィギュアと一致しています。
個人投資家と転売ヤーもフィギュアに参入
女子が求めたのはドキドキと癒し
この販売戦略が大陸女子の物欲に火を点けました。
- 開けてみるまで中が分からないドキドキ
- プレゼントの包みを開けるような、自分へのご褒美的な感覚
- 好きなキャラクターのお気に入りデザインを集める喜び、達成感
- 勉強机や会社のデスクに置いて眺める時の癒し
がポイントだそうですよ。
上級者になってくると、入手したフィギュアを塗装し直したり着せ替えたりして、SNSで自慢するのがめっちゃ楽しいんだそうです。散歩や旅行にフィギュアを連れていって写真を撮ったり、友達の結婚式に連れて行って記念撮影をするツワモノもいらっしゃるようです。もちろん写真はSNSでシェア。
今度こそシークレットが出るかも……
もうひとつの起爆剤は、「シークレット」商法。トレーディングフィギュアが「トレーディング」と呼ばれるゆえんとも言える希少価値の高いフィギュアを、ほんの少し流通させるやり方です。POP MARTは、この「シークレット」を取り入れました。
あらかじめシリーズの内容を写真で紹介。シークレットの情報を文字だけ→シルエット→写真と小出しに紹介するやり方は、日本のシークレット商法と完全に一致。でもまあ、日本人にしてみれば目新しいやり方ではありません。
ところが大陸女子はシークレットにハマっちゃいました。次は出るかも…と買い続ける負のスパイラルに陥っている女子が大量にいるそうです。
シークレットの情報が少しずつあきらかになり、やった~☆シークレット、GETしたYO!みたいな写真がSNSに貼られるにつれて、今度こそ自分にもシークレットが出るかもしれない、出たら自慢できるし、値上がりしたら売れるかも……というムードが醸成されていったみたいですよ。
POP MARTのヒット商品、Mollyは1個59元(約960円)。普通の学生さんやOLさんにも手が届く価格です(でも高いけどね)。この価格設定も、大陸女子のお財布からおカネを集める仕組みに貢献したようです。
大陸人民の"炒"熱に火が点いた
大陸ではギャンブルが禁止されている。競馬やパチンコなど賭け事は基本NG。でもギャンブルしたい、賭けで儲けたい気持ちまでは消せない。そこで人民が熱心にやってきたのが宝くじと株売買だった。特に株の売買では、常時リスクオン姿勢をとることで知られている。"炒股" (株に投資する)という言葉も生まれた。
近年になると"炒"の対象は、金融商品以外にも波及していきました。人民が、限定商品やレアもの、品薄の人気商品を買うために日本の店頭で行列していた風景は記憶に新しいですよね。高級スニーカーを売買する個人投資家の話題は、日本のニュースでも報道されていました。
そして、大陸の個人投資家さん達は、当然ながらPOP MARTの商品に参戦。"炒娃" なる新語も登場しました。売買専用のSNSグループやスマホアプリが乱立状態になっています。
おしゃれフィギュアの売買専用アプリ"葩趣" 。これはほんの一例。
転売ヤーさんがやって来た!
大陸転売ヤーさんの凄まじさは日本でもよく知られています。
こんなこともありましたねー。
でも今は新型コロナのせいで海外買い付けも難しい。そんな転売ヤーさん達がPOP MARTを見逃すワケがありません。
このように
が三つ巴になり大騒ぎ。定価59元のフィギュアが70万元(約1140万円)に高騰したりしています。
日本の福袋商法をパクる
POP MARTの王寧会長の発言に、度々登場する日本関連ワード。そこからも分かるように、POP MARTのビジネスモデルが、端々で日本のやり方をパクっているのは明らかです。
そしてついに、わが国のお正月の風物詩、福袋をパクりましたよ。
「福袋」って日本語ですからね!日本の文化ですから。
けどまあこれが大陸第1号というわけではありません。一時期あれだけ大量の人民が日本観光に来ていたわけですし、日本在住の大陸ビジネスマンも大勢いますから。「福袋」は大陸で一定程度認知されています。
でもねでもね、オシャレで垢抜けた感じのPOP MARTがやるのかい!という気分にはなりますね。
POP MARTの福袋は当然バカ売れ。「POP MARTの福袋を開けてみた」みたいな動画や写真がネットをにぎわせています。
POP MARTのビジネスモデル、今後はどうなる?
「ケニー・ウォン氏に声をかけた時、まさかこんな状況になるとは思いもよらなかった」。香港で念願の上場を果たした際に、王寧会長語った言葉です。(実はPOP MARTは、一度大陸市場で上場したものの業績が低迷。上場廃止に追い込まれた過去がある。)
でもね、POP MARTの経営陣は、王寧会長が北京大学修士課程時代に集めた全員北京大学卒の頭脳集団らしいですよ。当然、今みたいな流れになると読んでいたはずです。
そして王寧会長が「3日後に真似される」と嘆いていた通り、おしゃれトレーディングフィギュア業界には新たな企業が続々参入しています。
クレイジーな中古品売買市場での価格高騰を受けて、政府も監視を強化し始めました。今の勢いが持続するかどうかは疑問ですね。王寧会長率いる頭脳集団は、先の先まで考えているとは思いますが。
日本進出の今後はどうなる?
そんな感じで絶好調のPOP MART。2020年7月に日本法人を設立した後、かなりのスピードで広範囲に出店(出スペース?)しているようです。
冒頭で書いたように、日本ではあまり話題になってない気もしますが、どうなるかな?
- 日本は世界屈指のキャラクター大国、Molly可愛いかもしれないけど、今さらかも。他に可愛いキャラ、いくらでもいるし
- けどアナ雪グッズが女子高生に流行したこともあるし、何かきっかけがあれば化けるかもしれない
- 開けるまで分からないドキドキ感とか、日本では新鮮味がないかも
- 大陸のようにエグいまでのトレーディング文化が、日本にはない。POP MART進出をきっかけに盛り上がるとも思えない、売買とか正直めんどいし。せいぜいだぶったデザインをメルカリとかで売って処分するレベルでしょ
- 日本の販売価格は1個1000円(税別)。かなり抑えてるとは思うけど、高すぎ。バンダイのプププとかもっと安いでしょ
- 逆にめちゃめちゃ精巧で、キャラに魅力があるならもっと高額でも売れるだろうけど、1000円は中途半端
- あ、でもソニーエンジェルって1600円なのか。だったらファンがつく可能性は少しだけあるかな
- 自販機はあり得ない。トレーディングフィギュアオタは、大箱内の配置や箱を振った時の音、わずかな重量の差で中身を判断するスキルを持っている。自販機ではこのスキルが活かせない
- 日本の女子に訴えたいなら韓国からめたほうがいいんじゃない?ケニー・ウォンさんより、韓国人作家のを押すとか。もういっそ韓国アイドルに宣伝させればいいよ!
以上、完全に個人的見解でした。POP MARTの頭脳集団は、このへん全部踏まえたうえで進出したんでしょうから、今後の展開を見守りましょう。
ん?なんとわが家の最寄り駅近くにもありますよ、POP MART。ロフトの店舗内で売っているみたいです。ついでの時に見学して来よーっと。中華時代劇デザインのフィギュア、あるかなぁ?あったら……買っちゃおうかな^^
コトバは生き物です。上記はあくまでも現時点で主流の言い方です。