しーらかんす式

音楽と日本語と中国語のブログ

毎日一語、中国語~QRコード

まだ辞書に載っていない中国語の新語をひたすら書き連ねていきます

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QRコード二次元コード(Quick Response Code/2-dimensional barcode)

1994年、株式会社デンソーウェーブが製造管理の効率化を目的に開発した識別コードのこと。従来のコードに比べ、情報量や読み取りスピードが大幅に改善された。現在は製造管理のみならず金融、マーケティング、研究など幅広い分野で利用されている。今や目にしない日はない「〇〇pay」も、QRコードを利用した決済手段である。

QRコードの特許はデンソーにあるが、使用料不要、申請不要になっており、誰もが自由に使ってよい。

参考:特許について|QRコードドットコム|株式会社デンソーウェーブ

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二次元コードというのは平面的なコードの総称で、QRコードはそのうちの1種。従来の長方形バーコードは一次元コードである。

デンソーウェーブとは、クルマ好きなら誰もが知っている自動車電装部品の大手企業、デンソーの開発を担う子会社のこと。

 

 

 

大陸
二维码 [èrwéi mǎ]QR [QR mǎ]

台湾
行動條碼 [xíngdòng tiáomǎ]

"二维码"は「二次元コード」の中国語訳だが、ほぼQRコードを指していると思っていい。"二维码""QR码"の訳語は、ともに中国語圏で広く使われている。"行動條碼"は台湾の言い方だが、もちろん"二维码""QR码"でも通じる。

特徴的な3か所の四角形、「切り出しシンボル」は、中国語で"定位点" [dìngwèidiǎn] と言う。

 

皆さんはQRコード決済、やってますか? 私は全くやってません。日本では、QRコード決済利用経験者は4人に1人らしいですよ。(2019年時点)

大陸ではスマホ決済が非常に普及しており、露天商や物乞いもスマホ決済、孫へのお年玉もスマホ決済などと日本で報道されるようになって久しい。

日本のそのへんのドラッグストアやコンビニにも、デパートや家電量販店にもアリペイ(支付宝)やらWeChatペイ(微信支付)やらのステッカーが貼られ

     欢迎使用支付宝支付

(お支払いはアリペイで)

などと掲示されるようになった。

近所のデパートでも目立つ場所にでかでかと貼ってたんですよ。わが家の近所にはそもそも大陸観光客なんて来ないのに何で?もしかしたら住んでる?気づかないだけで結構な数の人民がご近所に生息してる??と思ったが、さすがにコロナ以降いつの間にか撤去されていた^^

なんかビックリするんですよね。日常の生活空間に、突然大陸的なものが出現すると。

周知のことと思うが、このアリペイやWeChatペイの決済システムはQRコードを使用している。2017年時点で、アリペイのユーザー数は5億2000万人、WeChatペイは7億8000万人に達する。大陸では、1日あたり16億回、QRコード決済が行われているらしい。

参考:総務省|平成30年版 情報通信白書|モバイル決済の2巨頭 支付宝(アリペイ)と微信支付(ウィーチャットペイ)

参考:世界標準のQRコード、発想の原点を聞く シリーズ・企業探訪⑰デンソーウェーブ | アマナとひらく「自然・科学」のトビラ | NATURE & SCIENCE

前述のようにQRコードの開発元、デンソーウェーブはライセンス料を無料としている。そのことが原因?となり、大陸ネットの反日ムードが盛り上がったのをご存知でしょうか。

 

きっかけは日経新聞中文版

参考:中国“标准”逆登陆日本 日经中文网

「中国のスタンダードが日本に逆上陸」(2018年1月付け)

QRコードは日本で開発されたが国内限定、製造管理限定のガラパゴス技術。でも大陸のITや金融は、あえてそこに着目!QRコードによるスマホ決済というスタンダードとビジネスモデルは、日本を脅かしている。電気自動車なんかの電池の技術でも、日本はそのうち大陸に先を越されるよ?ってかもう越されてるよ?大陸政府はパナソニックの電池なんか眼中にないし。大陸は世界の工場からデファクトスタンダード大国に変わるので~
みたいな内容です。

ただの大陸ヨイショ記事じゃん、と思うでしょ。私も思う。でも大陸メディアが注目したのは次の一節だったんです。

Denso-Wave的执行董事田路胜彦表示,“经常有人跟我说一个二维码收10分钱也好啊”。

中国“标准”逆登陆日本 日经中文网 より引用

デンソーウェーブの田路執行役は言う。「よく言われるんですよ。QRコードの使用料、1回あたり"10分銭"でもいいから取ればいいのにって」しーらかんす訳)

"10分钱"は1角、つまり0.1人民元(約1.6円)のことと思われる。なぜ1角ではなく"10分钱"なのか私には分からん。WeChatペイの運営元、テンセント"腾讯"=10セント="10分钱"に引っ掛けたジョーク?

 

発端は環球時報の切り取り+捏造

日経中文版から1年余りが経過した2019年2月22日。中共の宣伝工作部隊として知られる環球ネットが次のような記事を掲載しました。

日本人提出向中国收取“二维码”使用费?中国有权说No!_财经_环球网

「日本人が中国にQRコードの使用料を請求か 中国にはNoという権利がある」

以下、記事の内容です。

日本はQRコードを放棄したくせに~

日経新聞によると、2018年に日本上陸を果たしたアリペイに対し、「QRコードは日本の発明品。日本は特許使用料を徴収する権利を再出願して、中国人一人当たり1分払わせよう」という意見が日本人から出ているらしい。

※1分=0.01人民元=約0.16円。(なぜディスカウントした??)もしくは日本語の「1銭」のように「はした金」的ニュアンスもある。

多くの中国人はスマホのキャッスレス決済を「中国新四大発明」だと思い、QRコードを発明したのはアリババかテンセントだと信じているよね?でも実はQRコードは日本人の発明品で、特許を出願するつもりだそうだ。これほど便利なQRコードを発明したくせに、日本人はその使い方を知らない。つまり使う気がない、使う権利を放棄したってこと。

先にQRコードに着目したのは中国人!~QRコードの父、王越さん

"北京意锐新创科技"の創業者、王越さんは、かつてプログラマーとして日本のソフトウェア開発企業に就職したが、工場勤務にされたうえ、倉庫係を命じられた。日本での鬱屈した日々を送っていた時、QRコードに出会った王さんは帰国を決意。2002年、"北京意锐新创科技"を創業し、世界初のスマホQRコードエンジンを開発。

2003年、QRコード読み取り技術の知的財産、読み取り機の特許を取得した後、QRコードの国家規格、ISO取得に尽力した王さんは、「QRコードの父」と呼ばれている。

 

QRコードの国際的特許を持ってるのは中国人!~特許料で儲けまくりの徐蔚さん

2011年、凌空网の創業者、徐蔚さんは、QRコードの読み取り技術、"二维码扫一扫”の特許を世界、約100か国で取得。

2014年、日本の特許庁"扫一扫”の特許文書をしつこく確認したけど、侵害はひとつもなかった!よって、"二维码扫一扫”は完全な中国オリジナル。「中国新四大発明」の名に恥じない。だからQRコードの使用料を取るとか言ってるそこの日本人!残念!それ日本の片思いだからwww

…という内容でした。

 

二次元コード掃一掃」とは?

環球が完全な中国オリジナル!中国新四大発明!と豪語する"扫一扫”は、QRコード読み取り技術のこと。大陸人民のスマホにもれなく入っているQRコードスキャンAppの名前でもある。

その技術を発明したのが徐蔚さんです。

参考:让“扫一扫”更安全!《商品二维码》国家标准正式发布

2017年、"扫一扫”QRコード読み取りアプリとして初の国家標準に認定されました。QRコードを使用しての支払い、買い物、登録などができるのはもちろん、バーコードや多次元コードにも対応しているとか。4Gスマホの普及に乗っかり、

  1. QRコード
  2. スマホで読み取って
  3. 各種サービスのサーバーに送る

という三位一体の処理を瞬時に行えるところがすごいんだそうです。

徐蔚さんは"扫一扫”の特許と知的財産権を日本、米国、EUなど100か国で取得済み。中国发码行なる会社を設立し、"扫一扫”の特許使用料として米国、台湾から7億人民元(約112億円)を取得しました。

2020年には、iPhone"扫一扫”の特許を侵害しているとして、アップル中国支社を起訴。現在訴訟中だそうです。

参考:发码行诉苹果专利侵权

 

参考:日本人哀叹:我们发明的二维码,怎么让中国人拿去赚了大钱?_百科TA说

「嘆く日本人、『我々が発明したQRコードで中国人が荒稼ぎ』」

この記事によると"扫一扫”は大陸の利用者には使用料を請求しないが、海外にはしっかり使用料を請求するそうです。で、

先進的で器用な中国人と違い、欧米人はスマホ決済が苦手。でも今後、スマホ決済は各国で急速に普及するだろうから、中国はさらに大儲けできる!日本ではローソンが13,000店舗でアリペイを導入したし!

などとしています。

 

環球、煽り記事をWeiboで拡散

環球は、そこで止めとけばよかったんです。環球ネットなんて、そんなに読む人いなさそうだし。

ところが鳳凰(香港フェニックステレビ。大陸寄りメディアとして知られる)のWeiboに、自社記事を転載。これに憤青(愛国反日ネット民)たちが食いつきました。

日本に対する罵詈雑言の嵐、久々に見ましたがだいたい以下のような傾向に分類できますね。

  • だったら日本は漢字の使用料を払え、2000年分まとめて払って破綻しろ
    他に養蚕、製鉄、火薬、羅針盤、紙など。
  • 実はQRコードを発明したのは中国が先
    中国もアメリカも、QRコードを思いついてた、ただ日の目を見なかっただけ。仮にQRコードが日本の発明だとしても、金儲けの仕組みを考えたのは中国。
  • 日本も韓国と変わらん、白菜の漬物は中国が元祖
    (※日本でも中韓をまとめて論じる人がいますが、大陸でもそうなんです)
  • タダだから使ってやっただけ
    日本が無料でいいって言うから利用しただけ。カネ取るって言うんなら別のを使う。
  • 中国を侵略しておいて賠償も謝罪もしない卑怯な民族。まだ中国人のカネを奪う気か

 

北京青年報が環球報道をデマと断定

同日2月22日、北京青年報の記者が次のような記事を投稿しました。

日本提出向中国人收“二维码使用费”?内容不实_专利

「日本が中国にQRコード使用料を請求? 事実ではない」

日本が中国からひとり当たり1分のQRコード使用料を取るという記事について

  • 元記事(日経中文版)は2018年初めのもので、デンソーの特許について紹介する内容
  • 環球は「アリペイの日本上陸を知った日本人が、だったらQRコード使用料を取ろうと言った」と書いているが、アリペイの日本進出は元記事より後

と否定したんです。まあ怒れる大陸ネット民の大部分は、こんなことではひるみませんでしたけど。

 

デマ断定のタイミングが早すぎ!

北京青年報は、環球時報と同じく共産党直属の新聞です。

  • 環球の煽り記事が掲載されたのは、2019年2月22日 8:48
  • 北京青年報の否定記事が掲載されたのは、同じ日の17:48

なんか納得いきませんよね~。

さらに青年報の記者さん、

北青报记者在专利查询网站中看到,目前二维码相关专利有4万篇,而“二维码扫一扫”相关专利则无法在国家知识产权局的相关网站上查询到。

日本提出向中国人收“二维码使用费”?内容不实_专利 より引用

特許検索サイトでは、現在、QRコード関連特許が4万件見つかった。だが"扫一扫”関連特許は国家知的財産権局の関連サイト上で検索できなかった。しーらかんす訳)

と書いています。

もう、どういうことなんだかサッパリだよ……。

 

こうしてQRコード特許に関する共産党メディアのマッチポンプは終了しましたが、ネット民の反日カキコはしばらく続きました。

とはいえ、尖閣国有化反日デモの時とは違って

  • それ、デマだってもう判明したから
  • 漢字の使用料が請求できるんならアラビア数字を発明したアラブ人は全員大富豪
  • 古代の四大発明に特許を主張すべきではない
  • 世紀の大発明を無償で公開したのは日本人、それをパクったのは王某、パクリで大儲けしたのは徐某。さて、誰を信じる?

などと、たしなめる人もちらほらいました。人民、ちょっとは変わったんだね~と感心したものの、そういうカキコもマッチポンプの一環かもしれん、とも思ってみたりして。

 

 

コトバは生き物です。上記はあくまでも現時点で主流の言い方です。